そんな時、テレビで五輪の柔道番組が放映され、何気なく観ていました。私のことも特集されており、負けた瞬間スタンドで応援しに来ていた両親が、周囲に頭を下げている様子が映し出されたのです。それを見て自分の愚かさに初めて気付かされました。負けて一番不幸なのは自分だとずっと錯覚し、周りがまったく見えていなかったのです。
それからは自分のことを思ってくれる人たちに恩返しすることを常に心に抱き、嘘のない努力を重ねて練習に励もうと決めました。だからケガした時はショックよりも「これでも絶対に恩返しをするんだ」と闘志がより表に出て、4年間の集大成を見せてやると試合に集中できたのかもしれません。アクシデントがあったほうが雑音や雑念が入ってこず、かえって集中力が研ぎ澄まされるものです。
ケガした後からは、こうすれば勝てるというのではなく、どんな状況でも自分が戦う準備ができているよう、より心がけるようになりました。勝負は生きるか死ぬかの戦いであり、覚悟と勇気を持って臨めるか。そのためには常に戦う準備を怠ってはいけないのです。
【プロフィール】
古賀稔彦(こが・としひこ)/1967年生まれ、佐賀県出身。現在は日本健康医療専門学校校長のほか、「古賀塾」を設立し後進の指導に当たる。
※週刊ポスト2020年12月11日号