芸能

“負け犬”好演の勝地涼 お調子者とシリアスの「新境地」とは

(写真/時事通信社)

『アンダードッグ 前編/後編』の舞台挨拶に登壇した森山未來(中央)と勝地涼(右)(写真/時事通信社)

 主演に森山未來(36才)、共演に北村匠海(23才)、勝地涼(34才)を迎え、11月27日に公開された映画『アンダードッグ 前編/後編』。レビューサイト「Filmarks」の初日満足度では、「前編」が4位、「後編」は見事1位を獲得したものの、“話題作”とまではなっていないようだ。だが、映画や演劇などに詳しいライターの折田侑駿さんは、「間違いなく今年一番すすめたい映画」と話す。以下、折田さんがこの映画の見どころを解説する。

 * * *
 前編と後編合わせて4時間半と、上映時間がかなり長い本作。そのせいもあって客足はあまり芳しくないようだが、レビューサイトでは「ボクシング映画の傑作が誕生」、「こんなにも心打たれるとは思っていなかった」といった口コミが多く見られ、実際に観た筆者自信も、是非スクリーンで観て欲しい、強烈な満足感の残る作品だと感じた。

 本作は、2014年の暮れに公開され世間を賑わせた映画、『百円の恋』の製作チームが再集結し作られた。本作と同じボクシングを題材に扱った『百円の恋』は、どん底から這い上がるヒロイン像が幅広い層から支持を集め、また、それを体現する安藤サクラ(34才)の俳優としてのポテンシャルも世に知れ渡った。この作品で安藤は第39回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞し、作品自体も第88回アカデミー外国語映画賞の日本代表作品に選出されるなど、大きな話題になった。

 そんな『百円の恋』の製作チームが再びボクシング映画を手がけると聞けば、期待しないわけがない。本作は、一度手にしかけたチャンピオンへの道から外れながらも、それでも諦めきれない日々を送る末永晃(森山)と、闘争心溢れる若き天才ではあるものの、かつての過ちによってボクサーとしての将来に暗い影を落とすことになる大村龍太(北村)、大物俳優の“二世”芸人で、人としても芸人としても中途半端な宮木瞬(勝地)ら3人の“負け犬”が、ボクシングを通して互いに闘い変化していく物語。三者三様の生き様がひしひしと伝わり、それぞれに感情移入出来る見応えたっぷりの作品だ。

 ボクシング映画とあって、映像も迫力満点だ。飛び散る汗と血と涙に、リング上の演者たちの気迫。それらを訴えかける「音」も非常に重要な要素であり、やはり劇場で観たいもの。当然ながら俳優陣は、かなりのトレーニングを積んだようだ。主演の森山は、撮影の1年前から体づくりを開始したらしい。『百円の恋』を観た人は想像がつくと思うが、ボクサーは自らをかなり追い込む。肉体面はもちろんのこと、精神面、些細な体の動かし方一つとっても、それらがいかに練り上げられたものか素人目にも分かるほどだ。

 メインの俳優陣3人のボクシングによる肉体と精神の激しいぶつかり合いに加え、脇を固める俳優陣が紡ぎ出す物語も本作の見どころ。風間杜夫(71才)、二ノ宮隆太郎(34才)、上杉柊平(28才)らの妙演に加え、3人を囲む女性たちを演じる瀧内公美(31才)、冨手麻妙(26才)、萩原みのり(23才)らの好演によって、彼らがいかに“アンダードッグ(=負け犬)”であるかが浮き彫りになる。ボクシング映画ではあるが、濃密な人間ドラマも繰り広げられるのだ。骨太エンターテインメントと人間ドラマが交差し、ノンストップに展開することで、観ているうちに上映時間の長さなど気にならなくなる。

関連キーワード

関連記事

トピックス

麻原が「空中浮揚」したとする写真(公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」より)
《ホーリーネームは「ヤソーダラー」》オウム真理教・麻原彰晃の妻、「アレフから送金された資金を管理」と公安が認定 アレフの拠点には「麻原の写真」や教材が多数保管
NEWSポストセブン
”辞めるのやめた”宣言の裏にはある女性支援者の存在があった(共同通信)
「(市議会解散)あれは彼女のシナリオどおりです」伊東市“田久保市長派”の女性実業家が明かす田久保市長の“思惑”「市長に『いま辞めないで』と言ったのは私」
NEWSポストセブン
左から広陵高校の34歳新監督・松本氏と新部長・瀧口氏
《広陵高校・暴力問題》謹慎処分のコーチに加え「残りのコーチ2人も退任」していた 中井監督、部長も退任で野球経験のある指導者は「34歳新監督のみ」 160人の部員を指導できるのか
NEWSポストセブン
松本智津夫・元死刑囚(時事通信フォト)
【オウム後継「アレフ」全国に30の拠点が…】松本智津夫・元死刑囚「二男音声」で話題 公安が警戒する「オウム真理教の施設」 関東だけで10以上が存在
NEWSポストセブン
二刀流復帰は家族のサポートなしにはあり得なかった(getty image/共同通信)
《プールサイドで日向ぼっこ…真美子さんとの幸せ時間》大谷翔平を支える“お店クオリティの料理” 二刀流復帰後に変化した家事の比重…屋外テラスで過ごすLAの夏
NEWSポストセブン
9月1日、定例議会で不信任案が議決された(共同通信)
「まあね、ソーラーだけじゃなく色々あるんですよ…」敵だらけの田久保・伊東市長の支援者らが匂わせる“反撃の一手”《”10年恋人“が意味深発言》
NEWSポストセブン
鉄板焼きデートが目撃されたKing & Princeの永瀬廉、浜辺美波
《デートではお揃い服》お泊まり報道の永瀬廉と浜辺美波、「24時間テレビ」放送中に配慮が見られた“チャリT”のカラー問題
NEWSポストセブン
8月に離婚を発表した加藤ローサとサッカー元日本代表の松井大輔さん
《“夫がアスリート”夫婦の明暗》日に日に高まる離婚発表・加藤ローサへの支持 “田中将大&里田まい”“長友佑都&平愛梨”など安泰組の秘訣は「妻の明るさ」 
女性セブン
経済同友会の定例会見でサプリ購入を巡り警察の捜査を受けたことに関し、頭を下げる同会の新浪剛史代表幹事。9月3日(時事通信フォト)
《苦しい弁明》“違法薬物疑惑”のサントリー元会長・新浪剛史氏 臨床心理士が注目した会見での表情と“権威バイアス”
NEWSポストセブン
海外のアダルトサイトを通じてわいせつな行為をしているところを生配信したとして男女4人が逮捕された(海外サイトの公式サイトより)
《公然わいせつ容疑で男女4人逮捕》100人超える女性が在籍、“丸出し”配信を「黙認」した社長は高級マンションに会社登記を移して
NEWSポストセブン
麻薬取締法違反で逮捕された俳優の清水尋也容疑者(26)
「同棲していたのは小柄な彼女」大麻所持容疑の清水尋也容疑者“家賃15万円自宅アパート”緊迫のガサ当日「『ブーッ!』早朝、大きなクラクションが鳴った」《大家が証言》
NEWSポストセブン
サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(X、時事通信フォト)
大麻成分疑いで“ガサ入れ”があったサントリー・新浪剛史元会長の超高級港区マンション「かつては最上階にカルロス・ゴーンさんも住んでいた」
NEWSポストセブン