3人の男が自身の尊厳を守るため奮起し、何度倒れても立ち上がり続ける姿を描いた本作だが、個人的には勝地演じる宮木の生き様には特に心を打たれた。宮木が出演するバラエティ番組で、“元日本1位”のボクサーである末永と試合をするという企画が持ち上がり、周囲は面白おかしく煽る。芸人である宮木本人も表面上はおちゃらけているが、やがて内心に“闘志”が芽生え始める。宮木がこれまでのように、リング上で“お調子者”の振る舞いをすればテレビ的にも本人的にも“オイシイ”はずだったが、周囲の期待とは裏腹に、宮木は必死にトレーニングに打ち込むのだ。
しかし、全盛期を過ぎたとはいえ、末永は“元日本1位”。生半可な覚悟で向かえばただでは済まない。それでも宮木は闘い続けることで、芸人としてではなく一人の人間としての尊厳を守り、自身のアイデンティティーを確立させているように思えた。試合でどれだけフラフラになっても絶対に倒れない宮木の“執念”は胸を打つ。“二世タレントにしてボクシングに挑戦する芸人”という特殊な設定ではあるが、彼の闘う姿に共感した人は多いようだ。
そして、宮木を体現する勝地が素晴らしい。人前で見せる自分と、心の内にある“本当の自分”というのは誰しも持っているもの。それを彼は繊細に演じ分けてみせた。これまでの勝地は、どちらかといえばひょうひょうとしたキャラクターを得意としてきた印象があった。『クローズEXPLODE』(2014年)のような硬派な作品での三枚目役もそうだし、『銀魂2 掟は破るためにこそある』(2018年)などでのコメディアンぶりもそうだ。過去の出演作でのイメージが今作における宮木の表向きの顔としても活きていた。
だが、今作の勝地はこれだけで終わらない。ボクシングを通して変化していく心情を、セリフに頼らず、顔つきや佇まいの変化で表現しており、これまでの勝地には見られなかった彼の“新しい芝居”を見たように感じた。口コミには、「何度も起き上がる姿に生きる活力をもらった」「宮木のスピンオフが観たい」「本気でぶつかっていく姿に、気付いたら応援している自分がいた」という言葉が並んでいるが、筆者もまったく同じ気持ちだ。
勝地演じる宮木だけでなく、三者三様の生き様に、観客は自身を重ねることになるのではないだろうか。圧巻のファイトシーンはもちろん、人間ドラマから得られる高い満足感は観て損はない作品だ。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。