誰しも迷う時はある。相談した相手の言葉が道を切り拓いてくれた、なんてこともなくはない。大人力について日々研究するコラムニスト・石原壮一郎氏が指摘する。
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もしも今「日本でもっとも悩みを相談したくない人は誰か?」というアンケート取ったら、かなり高い確率で、この方がトップになるのではないでしょうか。菅義偉首相、72歳。今年9月に総理大臣に就任して以来、コロナ禍に苦しむ日本国民に、失望感やもどかしさやイライラを頻繁に振りまいています。
そんな菅首相が、いつの間にか人生相談のムック本を出していました。タイトルはズバリ『第99代総理大臣 菅義偉の人生相談』(プレジデント社)。雑誌『PRESIDENT』2020年5月15日号~10月2日号に連載された「菅義偉の戦略的人生相談」を中心に、橋下徹氏や竹中平蔵氏や茂木健一郎氏といった豪華な顔ぶれが、おもに菅総理を称え新政権に期待する内容の原稿やインタビューを寄せています。
下々のものには「相談したくないタイプ」に見えますが、何事も決め付けはよくありません。総理大臣にまで上りつめた方ですから、さまざまな悩みにきっと的確なアドバイスを贈っているはず。そしてそのアドバイスは、今「日本でもっとも悩みが深い人」のひとりである菅首相自身の指針にもなっているに違いありません。
菅首相がどういう考え方で、何を目指して総理大臣の任に当たっているのか。日本の未来に安心感を抱けることを願いつつ、菅首相の回答をいくつか読み解いてみましょう。
まずは「同僚に比べて自己PRが苦手です。実績よりも低く評価されているようで……」というお悩み。もしかしたら、菅首相も同じ悩みを抱えているかもしれません。回答ではゼロから出発した自分の政治家生活を振り返ったり、2004年に北朝鮮の万景峰号の入港を禁止する法律を成立させた実績を披露したりしつつ、こう言っています。
〈心ある上司であれば、あなたがあえて不得手なアピールを試みなくとも、努力や、成果、職務に真摯に向き合う姿勢を理解し、評価してくれているはずです。(中略)具体的な実績を出せるように努力することに専念すべきでしょう。〉
なるほど、国民からの評価や支持率がイマイチでも、どこ吹く風の表情を崩さないように見えるのは、ちゃんと仕事をすればわかってもらえるという信念があるからなんですね。そうならなかったとしたら、それは国民の側が「心ある上司」ではないからだと思えば、反省は最小限で済みそうです。ちなみに、回答の半分以上は自己アピールでした。