「良い欲」を出そうと誓った震災経験
そう喝破する森岡氏自身、その後の人生観や仕事観、あるいは死生観をも大きく変える出来事を、神戸大学在学中に経験した。1995年1月17日に起きた阪神淡路大震災である──。
「私自身、欲を素直に出したいと思うようになったきっかけが、阪神淡路大震災でした。ものの十数秒のうちに、何千人もの命が一瞬にして奪われるのを目の当たりにしたわけですから、当時の衝撃はいまでも筆舌に尽くせません。
震災によって学友が40人以上亡くなりましたし、中には前日の16日夕刻、一緒にお茶を飲んでいた仲間もいました。
ですから、いまでも私自身、いつ死ぬかわからないと思っています。そうであれば、ここまで一生懸命に生きたなと思える人生でありたいし、そう思うためには、自分がやりたいと思うことは素直に出さないといけません。
欲の方向を間違えたらダメですが、人の役に立ちそうな方向で思い切り欲を出してほしい。ビジネスマンであれば、たとえ上司にとっては都合が悪くても、会社全体で考えた場合にメリットが大きいならば、その欲を押し通すべきです。そうしないと後悔するし、自分が生まれてきた意味がないとさえいえます。
私自身は、震災をきっかけに欲を出そうと決めました。自分の欲に忠実に生きる。ただし、自分のためだけに行き着くような欲は極力抑制し、自分以外の誰かのためにささやかな能力を使う欲は、遠慮するほうがむしろ罪なんだという意識を持ったほうがいい。その欲に掲げた旗、ビジョンに人が集まってくるわけで、それが人を動かす力、すなわちリーダーシップにつながっていくわけです。
では、欲を出そうとして壁にぶち当たった時はどうするか。これは“慣れ”の問題です。欲のレベルを下げたところから脳を慣らしていき、その都度、少しずつ小出しに欲を出して跳べば、脳も跳ぶことに慣れていくんです。私もそうやって慣らしてきました」