P&G時代に研ぎ澄まされたマーケティング技術
震災の年、大学4年生となって就活を始めた森岡氏は、一番の趣味である海釣りや食事も肉より魚派ということもあり、当初、水産部でマグロの扱いが有名だった某大手商社から内定をもらい、本気で行く気になっていた。が、震災を通して考え方が変わり、成果主義で競争の激しい外資系への就職に切り替えている。それがP&Gジャパンだった。
P&Gのような家庭消費財を扱う企業は、自動車や電機業界のように革新的な新製品が生まれることはそう多くない。よって、できる限り自社ブランドを差別化しようと、繰り返し小さなシェア同士で激しく戦うことになる。ゆえに、「勝ち残るためにマーケティング技術が非常に発達し、研ぎ澄まされた」と以前、森岡氏は語っていた。
いまや関西を代表する人気テーマパークになったUSJ(時事通信フォト)
その後、V字回復を成し遂げることになるUSJに移籍したわけだが、とかく勘や度胸、クリエイティブさで勝負するエンターテイメントの世界を、科学的な数値分析に基づいたマーケティングによって変えていきたいという思いが、森岡氏の「欲」の原動力になっているといえる──。
「ハリー・ポッターのプロジェクトを企画した当時、当初の経済波及効果は近畿において6.2兆円、全国で11.7兆円と言われたのですが、実際にはそれ以上の経済効果を創出しました。家庭消費財の世界とは桁が違います。
といっても、私がUSJに転じた2010年頃は、民主党政権下のデフレの真っ最中。先が見えず、訪日外国人のゴールデンルートは京都、富士山、東京で、関西空港に降り立っても、お膝元の大阪市には目もくれなかったわけです。
ところがUSJが復活を遂げたことで、テーマパークという大規模集客施設はすさまじきパワーを持つことを再認識しました。私が知り得るものの中では圧倒的です。
ハリー・ポッターができて、東京からも人を呼び込めたことで、園内やUSJ周辺のホテル、飲食、物販にもすごい消費が生まれました。エンターテイメントは、人の人生を決定的に変える力を持ち、かつ地域経済も決定的に変える力もあるのです。
現在、西武園ゆうえんちのリニューアルプロジェクトに取り組んでいる森岡氏(右)と西武HDの後藤高志社長