トリプルアクセルはどうしたら跳べるのか
──女子でも、勝つためにはトリプルアクセルや4回転などの高難度ジャンプが必要になっています。中野さんは数少ないトリプルアクセルジャンパーでしたが、高難度ジャンプはどうやったら習得できるのでしょうか。
中野:ジャンプが得意な選手であっても、どのジャンプが得意かは、人それぞれ違います。私はアクセルジャンプが得意だったので、トリプルまで跳ぶことができましたが、それ以上に大きかったのは、いいお手本がすぐ近くにいたこと。伊藤みどりさんですね。同じリンクで練習しているみどりさんが目の前で跳んでいるのを見て、目で吸収することができたし、何より、トリプルアクセルを練習するのが当たり前の環境でした。
いま、ロシアの選手たちが次々に4回転を跳んでいますが、背景には、4回転を練習するのが当然の環境になっていることがあると思います。誰か一人、先駆者がそういう環境をつくってくださると、後輩たちはそれに続いていくことができるし、競い合うことができるんです。
それから、少女の頃に難しい技を身に着けておくと、女性ならではの体形変化によって一時的に跳べなくなっても、調整して、また跳べるようになると思います。私が最初にトリプルアクセルを跳んだのは14歳のときでした。その後、太り始めて跳べなくなって、取り戻すのに苦労はしたのですが、一度自分のものにしておくのは大事だと思います。
──日本女子はロシア勢に押されているように見えますが、どう感じていますか?
中野:ロシアの選手たちはもちろん素晴らしいのですが、私は、フィギュアスケートの神髄は“魅せる”ことだと思っています。美しく魅せることですね。ジャンプは必要ですがそれだけで十分ではありません。トータルバランスという点では、たとえば紀平選手をはじめ日本の選手たちは、ロシアの選手より優れていると私は思います。スケーティングの質に音の捉え方、指先・足先まで行き届いた表現などは素晴らしい。紀平選手は4回転も跳んでいますし、非常に楽しみです。
それからフィギュアスケートはルールが変わっていきますから、ルールの変更に対応していくことも、勝つために必要です。たとえばある時から片手や両手を挙げたジャンプ(タノジャンプ)が急に増えたのは、加点されるルールになったから多くの選手が演技に取り入れていました(「難しい空中姿勢」に加点)。でも、一昨年の改正で、タノジャンプ自体は加点対象でなくなり、よりジャンプ自体の質が重要視されるようになっています。選手は毎年変わるルールに対応していかなければいけません。