芸能

緒形拳さん 演技を超えたところで勝負しようとする本気の魅力

緒形拳さんの演技について共演者が振り返る

緒形拳さんの演技について共演者が振り返る

 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、故・緒形拳さんの演技と本気について共演者が語った言葉をお届けする。

 * * *
 緒形拳は二〇二〇年に十三回忌を迎えた。筆者が名優インタビューを始めたのは亡くなった後なので、残念ながら当人に話をうかがえてはいない。

 それでも、本連載に登場した方々の多くから、共演時のエピソードはうかがえており、その名優ぶりの側面は理解できた。

 そこで今回は、緒形拳にまつわるエピソードを振り返る。

 笑福亭鶴瓶は、本格的に演技の仕事をするようになった時期にテレビドラマで緒形と共演、ある「洗礼」を受けている。

「ある場面で僕が緒形さんに殴られる芝居があるんですが、緒形さんに本気で殴られてメガネが割れたんですよね。

 そしたら、ちょうど一緒に出ていた白川和子さんが『あんたな、得やで』って言うから『なんでですか』と聞いたら『なかなか本気で殴ってくれへんで』って。本気で殴ってくれると、こっちもガーっと行けるじゃないですか。僕の演技が下手だから、本気を出させようとやってるんやということを白川さんが教えてくれました」

 緒形のことを「ガタ」と呼ぶような友人関係にあった津川雅彦も、テレビドラマ『破獄』(一九八五年、NHK)で共演した時に同様のことがあったという。

「ガタは格闘シーンで相手役を本当に殴るという評判があった。この作品でも殴り合うシーンがあるから、『お前な、芝居は嘘をするもんだからさ。本当に殴るのはやめろよ』と釘刺しといたんだ。ガタも素直に分かったようなことを言ってたが、何かしでかす雰囲気はあった。案の定、本番ではいきなり後ろからネクタイで首を絞めてきたんだ。で、苦しいから両手で外そうと手をかけた途端、その隙にボカーンと殴られた」

 そうした芝居の真意について、津川は次のように説明している。

「俺はフォークボールやチェンジアップで勝負するが、ガタはミットが痛いくらいの剛速球しか投げてこない。受けてるうちに、この痛さは本物だと感じるようになった。役者は嘘ばかりやってんだから、本気でできるところはせめて本気でやりたいと思ってたんじゃないかな」

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン