緒形が「本気」だったのは、格闘シーンだけではない。『必殺仕掛人』(一九七三年、朝日放送)で緒形とW主役を務めた林与一は当時をこう振り返った。
「芝居になったら格闘技と同じでして。『この野郎!』と思いながらやっていました。
とあるシーンで二人が会話をしている。そこは長回しのワンカットで撮るんですが、緒形さんが段々とカメラの正面に入って、僕に後ろを向かせようとするんです。僕もそうはさせじと、胸ぐらをつかんで無理に引っ張って横を向かせたり。すると向こうは怒った顔をする。そういう闘いが楽しかった」
演技を超えたところで勝負しようとすることこそ緒形の魅力。林はそう感じていたという。
「昔は彼が好きじゃなかった。でもある時、芝居を観たらすごく汗かいて一生懸命やっている。それで好きになっちゃった」
緒形をそこまで駆り立てるものはなんだったのか。いちど直接聞いてみたかった──。
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2021年1月1・8日号