イギリスでは2018年から孤独担当大臣というポストができた。コミュニティセンターの一角に「男たちの小屋」という作業所を設け、中高年らがテーブルやベンチ、木製のサラダボウルなどを作ったりしている。それをバザーで売ったり、小学校にベンチを寄付したりしている。参加者は男性も女性もいて、なかには、本格的に修業して木工職人になる人もいるとか。
こんなふうに楽しみながら、仲間と集い、孤独を解消していくのはとてもいい方法だ。介護予防というと、みんなで歌をうたったり、体操をしたりするというイメージがあるが、こういう介護予防らしくない介護予防はこれから注目されていくだろう。日本でも、農業だけでなく、いろんな形の介護予防の形がうまれるといいなと思う。
定年後は、NPOで人のために働く
今、一生一つの会社で、定年まで働くということは、ほとんどありえない時代になった。何度か職場を変えながら、定年までたどり着いたとしても、その後の長い人生、どんな働き方や社会参加ができるのか、まだ理想的なモデルは現れていない。
ただ、定年後はより社会のためにということを意識した働き方を求める傾向は想像できる。ぼく自身も、病院を早期退職し、NPOの活動に力を入れるようになった。
先月、JIM-NETに、60歳のOさんがアルバイトとして入ってきた。大学を卒業した後、主に商工中金で働いてきたが、50歳くらいのときから毎週土曜日に介護施設で認知症の人の話し相手をしたり、散歩や部屋の掃除をするボランティアをしてきた。金融マンらしくない時間を過ごしてきた。
今は、殺到するチョコ募金の電話対応に追われながら、募金をしてくれる人の思いに元気をもらっているという。実に楽しそうだ。
「お金より心」などときれいごとを言うつもりはないが、すでに多くの人が、心の通った働き方にシフトしていることに、ぼく自身うれしい驚きだった。
【プロフィール】
鎌田實(かまた・みのる)/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に、『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。イラクや福島の子どもを支援するJIM-NETのチョコ募金(https://www.jim-net.org/choco/)活動も。
※週刊ポスト2021年1月1・8日号