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【川本三郎氏書評】マッチョ性よりも「弱さ」を主張する時代

評論家の川本三郎氏

評論家の川本三郎氏が注目の本を紹介する

【書評】『Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔』/アイリス・チュウ 鄭仲嵐・共著/文藝春秋/1400円+税
【評者】川本三郎(評論家)

 今回のアメリカ大統領選で強く印象に残ったことがある。民主党の候補者選びで、当初、ピート・ブティジェッジという、それまで知らなかった政治家が名乗りを上げたこと。インディアナ州サウスベンドの前市長という。そしてゲイ。それを堂々と公けにしていて、パートナーの男性と共に選挙を戦った。

 これは実に新鮮だった。日本ではゲイは芸能人には多いが、政治家にはほとんどいない。ブティジェッジは最終的には候補者から撤退したが、緒戦ではかなりの支持を集め、善戦した。アメリカ社会の懐の深さを感じる。

 新しく大統領になったバイデンが黒人女性を副大統領に推薦し、新政権のスタッフにも多くの女性を起用したのも、マイノリティが力を持ちつつある時代の新しい空気を意識しているためだろう。

 秋に公開された米・英合作のドキュメンタリー映画『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』が話題になったが、この作家は早くからゲイであることを公けにした。アメリカ社会では、トランプ支持者に見られるようにマッチョ的な「強さ」が求められる。それに対しカポーティは人間の「弱さ」を描いた。

 LGBTの運動とは「強さ」に対し「弱さ」を主張しているのではないか。台湾は早くから新型コロナの封じ込めに成功した。その立役者はまだ三十代のIT大臣、オードリー・タン。学歴は中学中退だが独学でITを学んだ。IQが高く天才といわれる。

 アイリス・チュウ、鄭仲嵐・共著『Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔』(文藝春秋)を読んで驚いた。この天才はなんとトランスジェンダーだという。男性から女性に変った。「私は、自分がしたいことをする。それが男性のすることか、女性のすることか、などと考える必要はない」という。また自ら選んだ新たな人生では、弱者への共感がより強まった、とも。世界は着実に変ってきている。

※週刊ポスト2021年1月1・8日号

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