生前の哲雄さんのお気に入りの一枚
亡くなる少し前、哲雄さんは妻に、「稚ちゃんは厳しい人だ。でも、そこがいい。それでいいんだよ」と声をかけた。その言葉は、大きな励みになっていると同時に、稚子さんの心に迷いも残した。
「『寂しい』とか『つらい』とか、そういう弱音をもうちょっと言っておけばよかった。そうすれば、夫もあれほどきっちりした準備をしようと、あれこれ頑張らずにすんだかもしれない。
最期の日、私は涙が止まらず、さめざめ泣いていました。すると、『大丈夫だから。絶対に守るから、安心して』と約束してくれたんです。夫の本心だったと思います。私がこうした弱い姿をもう少し早く見せられていたら、夫自身ももっと弱音を出せた部分があったかもしれない」
「こうすればよかった」は過ぎたから言えることであり、どれほど完璧な準備をしたつもりでも、時には自分を責めてしまうことがある。夫の死後、終活ジャーナリストとして活躍する稚子さんは、自分と同じ境遇にいる多くの女性に思いを寄せる。
「現在、日本人の死因で多いのは、がん、心疾患、老衰で、いずれも認知機能が衰えない限り、闘病中でもコミュニケーションが可能です。しかし、夫が大病を患ったら、多くの妻は『私がしっかりしなくちゃ』と頭がいっぱいになってしまう。でも、少しは夫に甘えて、弱音をはくことも妻の務めなのかもしれない」
終活のプロにも、答えが出せない準備がある。
※女性セブン2021年1月21日号
