雑誌記者も成し遂げた……母の素晴らしき人生の記憶
母の記憶障害はどんどん進行していて、ほんの数分前のことを忘れる様子はわかっていても、やはり驚愕する。それなのに昔の記憶はやけに鮮明なのもまた驚きだ。母の頭の中をあれこれ想像してみるが“幼稚園の先生”のような謎もあって計り知れない。
こんなこともあった。デイサービスで自分を語るイベントがあったらしく『人生で成し遂げたこと!』と題した母の語録がカードになっていた。そこに書かれていたのは「雑誌記者をしていたこと」。驚きより胸が熱くなった。
もちろん雑誌記者は私。母には無縁の世界で、娘の仕事にさほどの興味もなさそうに見えていた。それでもワクワクした取材のこと、うまく書けた記事のことなど、折々母に話していたかもしれない。それが、母の中では自分が体験したように記憶に留められたのかと思うと、うれしかった。
記憶は事実とは限らないが、母が自由自在に描く記憶は、なかなか彩り豊か。素晴らしき人生だ。
※女性セブン2021年1月28日号