2020年5月、新型コロナの感染拡大に伴う緊急事態宣言により休校した早稲田大学(時事通信フォト)
娘を学校に行かせないとはひどい親だ、考えすぎではないのか……。時任さんが自身のSNSに「娘の自主休校」について書き込むと、批判意見が寄せられた。考え過ぎかもしれないという気持ちはある。他の子供が学校に行っているのに、娘だけが教室にいないということで、友達やその親から、どう思われているか、なんと噂されているか、容易に想像もつく。それでも、娘や家族のことを考えれば、どうしても通学はさせられないと話す。
「ニュースや専門家は危険だと繰り返し言っているのに、政府の対応は曖昧なままで、学校の話はほとんど取り上げません。何が正しく、何なら信用できるのか。その見極めが全くできない」(時任さん)
学校側には、子供を心配する親からの問い合わせが相次いでいるという。同じく千葉県内の公立小学校教員・山下京子さん(仮名・30代)が、対応に苦慮する現場の声を吐露する。
「私たちも困惑していますが、どうにもできないというのが本音です。生徒の家庭から感染者が出た場合、お子さんが濃厚接触者と認定された場合のみ、登校停止にするなどの措置が取られていますが、いじめなどが起きる可能性も高く、かなり慎重です。昨年、同僚の教員から感染者が出た時は、学年ごと登校停止措置が取られましたのですが、当時とは対応にかなり差があるようには感じます」(山下さん)
緊急事態宣言が発令中にも関わらず子供を学校に行かせることへの是非だけでなく、たとえば部活だけは中止になっているという「矛盾」についても、保護者から説明を求める声が相次いでいる。
「昨年末、一部の部活動では、子供にマスクをさせたまま練習させるなどして複数の保護者から問い合わせが来ました。確かに、酸欠になるなどの危険性があり奨励されるべきでないことは、顧問の教師もわかっていました。行政や学校長から部活を中止する決定はなされないけれど、感染したら困るので、仕方なくマスクをつけて部活動をやったのだと。年が明け、練習も対外試合も中止になると今度は、学校はあるのになぜ部活はダメなんだ、という問い合わせがくる。現場の疲弊は、かつてないほど高まっています」(山下さん)
昨年2月末に要請された一斉休校のイメージが強く残っているため、新型コロナウイルスの感染拡大には休校にすべきとの印象が残ってしまっているかもしれない。だが、学校の一斉休校による予防効果はそれほど高くなかったという分析が出されたこともあって、文部科学省のガイドラインは2020年4月に改訂。以降はそれぞれの責任において、個別に判断すべしとなったままだ。
結局、地域ごとになかなか決断しない傾向が強まり、実際には各自で判断しているような有り様。そうなると100人いれば100通りの判断基準ができてしまい、教育関係者も保護者も、生徒たちも、皆が翻弄されているというのが実情だろう。判断が統一されないから、少しの相違が大きなトラブルに発展してしまう。親も教師も、何が正しいのか決めかねても、「何が危険か」という判断だけは下してしまうのも、緊急事態下にあるというある種のプレッシャーがそうさせているのかもしれない。
2020年秋頃、コロナ感染者数が横ばいになり、誰もが「コロナの終息」を予見した。一時でも明るい兆しに浸った分、これまでにないような厳しい現実を突きつけられた国民は、再び殺気立っているようにも思える。当面の希望は、来月にも接種が開始されるとされている「ワクチン」だが、それは特効薬ではない。また、ワクチン接種開始が遅れたり、なんらかのトラブルによって接種が出来ないという事態が起きたら……。もはや、終息を天に祈ることくらいしか出来ないのか。