対談は椎名氏行きつけの池林房で行われた
幸村「椎名さんはどんなカレーを作ったんですか?」
椎名「市販のルーで作ったカレーだね。市場で牛肉を買ったくらいかな。30分くらいでできちゃったんだけど、向こうは手練の主婦が十何種類ものスパイスを調合して3時間くらいかけて作ったサバカレー。出来上がって食べ比べしたら、向こうの旦那さんが『こんなの、カレーじゃない! 米が手にくっついて食べられないじゃないか』って怒っちゃって」
幸村「ああ! 向こうの方は手で食べますもんね」
椎名「それで負けました。でもどっちも美味しかったな」
幸村「結局、どんなふうに調理しても美味しいんですよね」
椎名「そうなんだよ。いま、雑魚釣り隊というバカな連中とキャンプしたりしてるけど、なぜか60人前も作っちゃうヤツとか、丁寧に仕上がったカレーにタバスコ丸ごと1本入れてヒーハー騒いでいるヤツとかいてさ。でも、そんなことしても出来上がったものはむさぼり食うもんな」
──最近はカレーは食べてないですか?
椎名「そうなんだよ。これを読みながら『おれ、最近、カレー食ってないな』と心を荒ぶらせたね」
幸村「最高の褒め言葉をありがとうございます」
椎名「これからもおいしい小説を書いてください。また会いましょう」
【プロフィール】椎名誠(しいな・まこと)/1944年東京都生まれ。作家。写真家、映画監督としても活躍。1989年『犬の系譜』で吉川英治文学新人賞、1990年『アド・バード』で日本SF大賞受賞。私小説、SF小説、随筆、紀行文、写真集など、著書多数。
【プロフィール】幸村しゅう(ゆきむら・しゅう)/映画助監督、介護予防デイサービス兼鍼灸治療院の経営などを経て、小説を書き始める。『私のカレーを食べてください』で第2回「日本おいしい小説大賞」を受賞しデビュー。
構成/竹田聡一郎、撮影/内海裕之