『私のカレーを食べてください』について聞く椎名誠氏
椎名「なるほど。もともと筆の力を持っていたんだね。賞の選考委員をやっていると何十編も読むんだけど、いい作品と悪い作品ははっきりしてる。悪い例では、誰かのセリフの『』のあとに『と言った。』というのがつくんだよね。この『と言った。』は要らないんだ。そのあたりの区分けは教えられても分からないものなんだけれど、幸村さんは自分で気づいた。そこに今回の受賞はあるのかもしれないね。とにかく読んでてカレーを食べたくなる小説だった」
幸村「椎名さんが帯に推薦コメントを書いてくださると聞いた時に『俺はカレーが食いたくなった』と一言いただけたら嬉しいな、くらいに思っていたのですが、想像以上にいろいろ書いてくださってありがとうございました」
椎名「帯にも書いたけれど、この小説は本当に武者修行だもんなあ。そしてカレーって、読む人に必ず感受性がある食べ物じゃない。そういう共通項って小説や映画ではすごい大きな力になる。選んだ食べ物は良かったよね。日本三大食のひとつだから」
幸村「三大って……あとふたつはなんですか? ラーメンと……」
椎名「カツ丼に決まってるでしょう」
──横からすいません。それは誰が決めたんですか?
椎名「俺。俺が好きな順。若い頃はカレーとラーメン一緒に食べてたりしたもんなあ。作中にもカレーをお代わりする人が書かれているけれど、あんな感じで幸せだった。あの弁護士のキャラが綺麗に2杯食べるのはいい描写だと思う。読者に『この人が出てきたら、こんなことをするだろうな』と思わせるキャラクター作りはとても大切だからね。いいテーマさえ見つければどんどんいい作品が書けると思う」
幸村「キャラクターという意味では椎名さんの『哀愁の町に霧が降るのだ』で、沢野(ひとし)さんが出会いのシーンで、『空気銃で撃つぞ』って言うじゃないですか。あんなセリフ逆立ちしたって書けないです」
椎名「あいつの場合はノンフィクションだからね。そういうバカなんだ。いまだに付き合っているからね。あいつの電話は長いんだよ」