もちろん、国民全体では、この裁判を通じて反トランプの世論は高まる可能性が高い。ラスキン下院議員は裁判の冒頭で、“罪状”となった1月6日の連邦議会議事堂乱入事件について、トランプ氏の扇動が原因であることを訴えるビデオを放映した。これがなかなか上手に作られていて、乱入したトランプ支持者たちがいかに乱暴狼藉を働いていたか、そして、その直前にトランプ氏が「議事堂に行こう!」と彼らに呼び掛ける演説がいかに彼らに影響を与えたかがよくわかる出来である。これを普通に見れば、確かに乱入事件の責任はトランプ氏にあるという印象を抱く。「反乱の扇動」があったなら、本来は弾劾されるべきだ。すでにトランプ氏の支持率(大統領でもないので変な話ではあるが)は全米では20%台に落ち込んでいるから、このビデオと裁判によって、さらに国民人気は下がることが予測できる。共和党があくまでトランプ氏をかばい、無罪放免にしたなら、共和党に対する怒りも増すだろう。民主党にとっては、無罪が前提だとしても、やる価値のある裁判なのかもしれない。
興味深かったのは、トランプ氏の弁護団の主張である。民主党が「一般市民となったトランプ氏」の弾劾にこだわるのは、2024年の次回大統領選挙にトランプ氏が出馬し、再選を目指すバイデン大統領を打ち負かすことが怖いからだ、とぶち上げたのである。民主党はこの発言に猛反発し、さすがに共和党議員からも失笑と批判の声が上がっている。
トランプ氏は弁護団の荒唐無稽な主張には激怒したとも伝えられるが、少なくともこの裁判で共和党内の主導権をがっちり握ってしまうには、そうやって民主党を煽るだけ煽り、共和党議員の忠誠を試し、結果として無罪となるのが一番いい。着々と準備が進んでいると見られる「トランプ・チャンネル」の開設を前に、共和党支配が完成するなら、今は国民支持を失っても得るもののほうが大きいのだろう。その意味でも、この裁判はすでに「トランプ氏の圧勝」が決まっているようなものなのだ。