マスコミ不信を増大させていた森氏は、小渕恵三首相が倒れる直前の2000年3月に異例の表明をした。地元後援会などの会合の取材は地元の報道機関のみにしてほしいと石川県政記者会に申し入れたのだ。理由は以下だ。
〈秘書は「後援会など身内の会合で発言した内容を、自民党幹事長としての公の場での発言のようにとらえられると、真意が伝わらず、誤解を受ける。幹事長として話す場合は、担当記者が来る」ことなどを挙げた〉(2000年3月24日・朝日新聞)
この提案は拒否された。森氏は、講演会でのリップサービスを大々的に報じるのは辞めてほしいと願ったのだろう。その場のノリで発した言葉を書いてほしくないという思いもあったはずだ。しかし、文章を吟味する時間もあり、誰もが読める出版物でも、森氏は筆を滑らせている。
1999年出版の著書『あなたに教えられ走り続けます』(北國新聞社)の目次には、〈白紙答案で産経新聞に入社〉という項がある。
同書によると、産経は1960年度の新卒採用予定がなかった。しかし、早稲田大学4年生で雄弁会の森氏はマスコミを志望し、政治家の紹介で水野成夫社長との面会に成功した。水野氏は秘書室長に「産経新聞の担当者を紹介してやってくれ」と指示し、森氏は産経本社を訪れた。その場で「わかった。追って連絡がいくから」と返答されたが、年が明けても何の音沙汰もない。業を煮やして電話すると、「新人は採用しない」と告げられる。
それでも諦めず、なんとか入社試験の約束を取り付けた。テストは自分を落とすための口実と考えた森氏は、答案用紙に「天下の水野成夫氏は前途有望な学生をつぶすようなことがあってはならない」というようなことだけを書き、合格を勝ち取ったという。
首相になった直後の2000年4月24日の衆議院予算委員会で、社民党の保坂展人氏が同書の記述について追及した。
〈保坂氏は「コネ入社ではないか。恥ずかしいと思わないのか。若い人に悪い影響を与える。回収する考えはないのか」とただした。首相は「もう少し勉強しておけばよかったと反省している」としながらも「企業側は試験だけでなく、人間性を見るとか、運動部で鍛えたところを見るとか、多面的な要素を考えてほしい」と答弁。収まらない保坂氏は「首相が平然としていられることに不快感を覚える」と捨てゼリフを残した〉(2000年4月25日・日刊スポーツ)
そして1か月も経たない5月16日、森氏は『神道政治連盟国会議員懇談会』の結成30周年記念祝賀会で「日本の国は天皇を中心とした神の国」と言い、批判を浴びた。代議士引退直前、こう話している。
〈私が言いたかったのは、「親子の間で殺人が起きる時代だ。これは机上の勉強、啓蒙だけで済む問題ではない。結局は宗教の理念が大事で、命を大切にする神様、仏様の考えが必要になってくる」ということ。「神の国」のほかにも、「キリスト様も、マリア様も、日蓮さんも、親鸞上人も、自分の心に宿る宗教文化が日本にはある」と言っているんですが、例の部分だけ取り上げられたんです〉(2012年8月27日号・日経ビジネス)