「平均視聴率19.6%で有終の美を飾った『テセウスの船』を意識しているのか、日曜劇場では、『危険なビーナス』、そして今回の『天国と地獄』とミステリードラマが続いています。原作ありだとネタバレが避けきれず、原作なしだと脚本の力が及ばず展開が読めてしまうドラマも多いのですが、『天国と地獄』はストーリーテリングに長けた脚本家・森下佳子の完全オリジナル。猟奇的な殺人事件から始まり、奄美大島の神秘的な伝説、さらには日高に双子の兄がいたことが判明するなど、新たな事実が明かされるたびに別の謎が浮上する展開が魅力です。
視聴者が推理しやすいようにあえてヒントが散りばめられた考察向けのドラマが流行る中、毎週翻弄されるような圧倒的なストーリー展開こそが、『天国と地獄』が視聴者を惹きつける最たる理由だと思います。
さらに作品を進化させたのは、複雑な脚本を乗りこなしている綾瀬はるかさんと高橋一生さんの腕前です。過去に何度かタッグを組んでいるため、森下さんはおふたりの魅せ方を熟知されているのでしょう。第2話での高橋さんの“泣き”芝居は、どことなくコミカルに映っていた男女入れ替わり劇をシリアスへと一転させました。綾瀬さんも呼応するように日高役とのシンクロ度を増している。物語自体の面白さと共に、綾瀬さんと高橋さんの好演も記憶に残る、総合点の高い作品に仕上がるのではないでしょうか」(明日菜子氏)
ネット上の感想や考察の盛り上がりを見て、新たに『天国と地獄』に興味を持つようになった人も多いことだろう。最終回を目前にして、視聴者も巻き込んで非常に良い波が生まれていると言える。どのドラマも佳境を迎える中、『天国と地獄』の盤石のポジションを脅かす作品は現れるのか——。
◆取材・文/原田イチボ(HEW)