なぜ「一番搾り」の看板ブランドで出したのか
ではなぜ、看板ブランドの「一番搾り」での展開だったのかは、発表会当時、キリンの布施孝之社長が意気込みを語っていた点にも窺える。
「われわれは、『一番搾り』をとにかくビールの本流にしたい。一番搾り製法による美味しさは、まだまだ伝え切れておらず、『スーパードライ』(アサヒビール)に販売量で大きく水を開けられているのが現状。『一番搾り』ブランド全体の中で、『一番搾り糖質ゼロ』で3分の1を占める構成比にまでもっていきたい」
キリンのライバルであるアサヒも、5年前の2016年に「アサヒ ザ・ドリーム」(糖質50%オフ。アルコール度数5%)を発売し、翌2017年にリニューアル。リニューアル商品は麦芽100%の生ビールで糖質50%オフは日本初、という触れ込みで気合が入っていたが、商業的には捗々しくなく、2019年6月に終売となっている。
一方、キリンは糖質50%オフからハードルを上げ、糖質ゼロビールとして、これまた日本初を掲げた。アサヒの場合は旗艦の「スーパードライ」の派生商品ではなく、専用商品としての展開だったが、キリンは中核ブランド「一番搾り」での展開。この点の覚悟について、キリンのある幹部はこう語る。
「看板商品のブランドエクステンション(派生商品)は、ブランド購入が分散してしまい、お客様が戻ってこないリスクや、その商品が売れなかった場合はブランド棄損の可能性が高いので、通常は慎重になるものです。
つまり、大きなブランドを使って新商品を試みるほうが覚悟が要るわけで、むしろ、まったく新しい専用商品のブランドで出したほうが、撤退しやすいのも事実。ただ、主力ブランドのエクステンションならもともとの認知度が高いので、ブランド全体として店頭展開できる点は強みです」