糖質ゼロビールのヘビーユーザーは?
では、いずれコロナ禍が収束した後も、糖質ゼロビールは伸び続けるだろうか──。サントリーの和田氏は、
「継続すると思います。コロナによって、糖質を摂り過ぎないという潜在意識が顕在化したと思っていますから」
と語るが、逆に言えば、糖質ゼロビールの主力ターゲットは、糖分摂取過多を気にすることなく飲めるようになった、ビール好きのヘビーユーザーということにもなる。
ビールは飲まない人が多いといわれる若年層が、糖質ゼロだからといって急にビール市場に流入するとも思えない。そもそも、ビールや日本酒、ワインといった醸造酒は基本、糖質が多くカロリーも高めだから、そこを気にする人は、ウィスキーや焼酎といった蒸留酒に流れる人も多いだろう。
目下、ビールメーカーは「エコノミー(発泡酒や第3のビール)」、「スタンダード(通常のビール)」、「プレミアム(少し価格が高めのビール)」という3層での戦略を立てるが、コロナ禍による飲食店向けビールの消失分を挽回するには、3層の間口も奥行きもできる限り広げたい。
プレミアムについては、サントリーが「ザ・プレミアム・モルツ」を、サッポロビールが「ヱビス」を擁しているが、アサヒやキリンには同ジャンルで戦う商品が乏しい。
キリンはクラフト強化でニーズの多様化にも対応
そこで家庭用市場の拡大を追い風に、プレミアムのさらに上をいく、ハレの日のニッチ商材だったクラフトビールについて、同ジャンルに最も積極的なキリンが攻勢をかけることになった。3月23日に発売する「SPRING VALLEY豊潤<496>」(以下「496」と呼ぶ)がそれだ。
キリンは、これまでも「グランドキリン」や輸入クラフトの「ブルックリン」なども手がけてはいたが、「496」は大がかりな販促費もかけてスーパーの棚に置かれることになる。そのため、缶製品化にあたっては、従来品の「496」のアルコール度数6.5%を6%に下げ、より飲みやすいようにチューニングしたという。
確かに、試飲してみると従来品より少しマイルドになった印象だったが、通常のビールとは一線を画す濃厚な味わいだ。350ml缶で税込み約273円前後とお値段も高めなら、前述した糖質ゼロビールとはうって変わって、コクやうま味が濃い分、カロリーや糖質も高めという商品がクラフトビールには多い。
ニーズの多様性の中で人と違った商品を欲する人や、飲食店で好んでクラフトビールを飲んでいた人たちの需要を、缶の「496」で、ある程度は代替していけるのではないか。