彦三郎が読み聞かせをする理由のひとつは、自らも読書家であること。純文学からノンフィクションまで幅広く読むという彦三郎が最近印象に残ったのは映画化もされたミステリー『スマホを落としただけなのに』の作者・志駕晃氏がコロナ禍の東京を舞台に描いたリアルタイム・ミステリー『彼女のスマホがつながらない』だ。
「昔から読書が好きで、本の中に書かれた別世界に救われたことが何度もあります。以前は登場人物に感情移入をして読んでいましたが、今は物語の面白さそのものを楽しむようになりました。本作では令和2年の女性誌編集部と平成31年のパパ活女子たちの現在過去が編集者の友映や貧困に悩む大学生の咲希、その友達のユイカら複数の目線で行き交い、自然と事件や犯人の姿が浮かび上がっていく過程が面白かった。
二転三転する出来事に一喜一憂する、誌上に生きる登場人物たちの息遣いに心が躍りました。ニュースや芸能ゴシップ、若者の風俗などがリアルに描かれていたのも面白かった」
中でも彦三郎を驚かせたのは本作の主題のひとつである「パパ活」の実態。
「強請騙りに盗みに殺し、痴情のもつれなどが当たり前に描かれる歌舞伎の中でも金銭を介入した男女のやりとり、つまり“色で稼ぐ”というのは頻繁に描かれてきました。しかし“パパ活”のような現代のSNSを介したやりとりは、芝居の世界よりも密閉感が増しているように思います。なにより現代の“パパたち”は、ちょうど働き盛りの世代。仕事に、家庭がある人は家庭に、と忙しいでしょうに、よっぽど時間の使い方がうまいのだろうな、とある意味関心してしまいました(笑い)。
このコロナ禍で改めて気づいたことは、読書は心や想像力を豊かにしてくれるということ。本を読むことは、これからも続けていきたいと思います」
◇坂東彦三郎(ばんどう・ひこさぶろう)
1976年 6月29日生まれ。歌舞伎俳優。Jーwaveにて『キッザニア東京』CMに息子亀三郎と親子で出演中。3月には国立劇場『時今也桔梗旗揚』に、6月にも博多座で『与話情浮名横櫛』『身替座禅』に出演予定。