夫は「離婚だけはしない」と言ってカウンセリングに
次回は、実家に帰り、夫に連絡して、「話し合いをしたいのでカウンセリングに一緒に行って欲しい」ことを伝えてもらった後に佐知ひとりでもう一度来てもらうことにしました。
夫から返信があって、「すぐ戻って来い」などと言われても、カウンセリングに行って欲しいことだけを繰り返し伝えるようにアドバイスしました。浩司はなんとか佐知を引き戻そうと交渉を始めるでしょうが、その交渉には乗らずに、カウンセリング場面でしか話をしない、と伝えることで、浩司のカウンセリングに来る可能性が高められるからです。
浩司のペースに乗らないためにも、浩司の反応を見ながらこれからのことを考えていくことが大事です。そして今の生活が続くなら、離婚を考えることも伝えるように言いました。
「じゃあ、離婚、となったらどうすればいいですか?」
「そうなったら、弁護士にお願いして、きちんと養育費と生活費をもらえるようにしましょう。弁護士も紹介します。でも、まずはご主人の反応を見ましょう」
両親には、これからはカウンセリングで解決していくので、両親から浩司に連絡はしないで欲しいことも伝えてもらうようにしました。
次にやって来た佐知は、少し表情が明るくなっていました。
「夫からは、すぐ返信が来ました。何度か、『帰ってこい』『家で話し合おう』と言われましたが、ちゃんと断って、カウンセリングでしか話し合わない、と伝え続けました」
その結果、浩司はカウンセリングに来ることに同意したのです。浩司に離婚の意思はなく、「離婚だけはしない」と言っているというので話し合いの余地があることがわかりました。
「『1回だけだぞ』と何度も送って来ましたが、返事はしていません」
素晴らしいです。「何度も通って欲しい」と佐知から伝えると、それについての交渉が始まってしまいます。話し合いはカウンセリング場面だけに限ることに意味があるのです。
カウンセリングの日、最初に佐知がやって来て、浩司が後から来ました。一緒に来るのも避けるように伝えてあったからです。私はまず、浩司にストレートにお金のことを聞きました。
「佐知さんはご主人に借金があるんじゃないかって心配しています」
「それは、ありません」
浩司は断言しました。
「でも、カードの引き落としができなかったことがあった、と聞いているんですが」
私がそう言うと浩司は、「確かに、口座のお金がゼロになったことはありました」
と認めました。
「立ち入ったことを聞いて申し訳ないのですが、何にお金が必要なんですか?」
答えづらいであろうことはわかっていたので、私はできるだけ丁寧に聞きました。そして浩司が答えやすいように付け加えました。
「佐知さんはラウンジや高級クラブに通っているのは知っています。そのことに不満を抱いているわけではないのです」
浩司は大きなため息をひとつついた後、答えました。
「そうです。ほとんどが飲食です」
浩司は、同僚や後輩と飲みに行くと、つい、おごってしまう時があるのだそうです。当然、ラウンジやクラブに行けば1回でも相当な額になります。
「見栄っ張りなんでね」
浩司は苦笑しました。
「でも、緊急事態宣言下ではお店もやっていませんでしたよね?」
ちょっと突っ込みすぎかな、とも思いましたが、私は尋ねました。浩司はしばらく黙りこみ、ため息をついてから打ち明けました。
「私は、家で飲むのが嫌なんです。店がやっていない間は、酒と食べ物を買って、ホテルで飲んでいました。その時に、店が閉まっていて暇だ、というラウンジやクラブの女の子を呼ぶこともありました。同僚や部下を誘うこともありました」