約束事はできれば第三者にいるところで交わす
もう限界。確かに、今お金のことを整理しなければ、今後さらに佐知が苦労するかもしれません。私は、浩司にカウンセリングに来てもらうために、佐知に提案しました。
「少し、家を出る、というのは難しいですか? もちろん、お子さんを連れて、ですが」
浩司に直接、借金について聞くことはできないし、今の生活費では足りないことをきちんと話し合うことも、これまでできずにきています。ですが、第三者を交えた話し合いは必要です。
夫婦の関係もうまくいっているとはいえず、このままでは、子どもに悪影響を及ぼす可能性もあります。夫婦仲が悪い家庭で育った子どもは、大人になってからも苦しみ続けることが多いのです。男性全般が怖い。嫌なことを断ることができずに、性被害に遭ってしまう。人と関わるのが苦痛で仕事が辛い、など影響は様々です。
佐知が、直接浩司に聞きたいことが聞けずに、言いたいことも言えないのなら、距離を置くことは意味があります。メールならば顔を合わせている時よりは、言いたいことが伝えられますし、佐知の「覚悟」も伝わります。浩司が離婚したくないのなら、話し合いに応じるはずです。夫が話し合いに応じない場合、妻が家を出ることは効果があるのです。幸い、佐知の実家が近くにあり、両親も元気だといいます。
「このことを両親に相談して、しばらく実家に身を寄せることはできますか?」
私の言葉に佐知は少し考え、
「どうして今まで言わなかった、とか怒られるかもしれませんし、夫に連絡してしまうかもしれませんけど、力にはなってくれると思います」
娘さんも学校に行くことができる距離だというので、しばらくは実家に身を寄せ、浩司に気持ちを伝えることにしました。
「娘さんの学校に来て、娘さんを連れて行ってしまう可能性はありますか?」
「それはないと思います。娘に対する執着は強くないので」
「実家に来る可能性はありますか?」
「わかりません……」
「もし実家に来て、謝られても、すぐに家には戻らないようにしてくださいね。カウンセリングに来てくれるまで戻らない、と伝えてください」
DV被害に遭っていたり、夫が深刻なアルコールの問題を抱えて、妻が実家に帰っても、夫が来て、「反省している」「もう二度としない」と謝罪すると、多くの妻は期待して、夫のもとに戻ってしまいます。ですが、きちんと話し合いをし、できれば第三者のいるところで約束事を交わす、ということが重要です。でないと、夫は「許してもらえた」と思い、同じことの繰り返しになる場合がとても多いのです。