大部屋のバイトから始まり、覚悟を決めて上京して始めた俳優としてのキャリアは、半世紀近くになる。
「俳優を始める時から、じいさんの役までやるのは当たり前だと思っていました。続けられずに辞めちゃう人もいますが、しつこく粘っていますよ。いいマネージャーにも出会えて。
一つ言えるのは、いつも芝居には真面目に取り組んできたということです。俳優は監督の言われた通りにすればいいと言う人もいますが、僕は僕なりにイメージを膨らませたい。メインの役でなくとも、監督には相談にいきます。『こんな感じでやりたい』と。それがいいことかは分からないですし、余計なことかもしれません。それでも、想いだけは訴えていきたいんです。
この日一日を真剣に生きる。そのことだけを考えるようにしています。人間以外の動物は明日のことは考えません。イルカは毎日遊んで暮らしています。そう考えると、人間だけが地獄に住んでいる気がします。人間は本当に失楽園に生きているんです。明日、明後日、未来を考え、ノイローゼになる。そんな地獄でもなんとか生きていかなきゃ。そのためには、あまり先のことは考えず、今日の糧を稼ぎながら毎日を暮らす生き方がいいと思うんです」
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
撮影/五十嵐美弥
※週刊ポスト2021年4月9日号