漫画家の弘兼憲史氏(73)は、5年前に著書『弘兼流 60歳からの手ぶら人生』で「弘兼憲史、身辺整理始めました」と宣言した。弘兼氏が語る。
「60歳まで生きてきたら誰しもいろんなものを抱えている。残りの人生を大きな荷物を抱え込んだまま過ごすよりも、手ぶらで身軽に生きたほうがいいと私は思うのです」
そうして整理するものの中には「人間関係」も含まれると言う。
「この年代になると、友人やその家族が亡くなったり、友人のお子さんが結婚したりと、冠婚葬祭がどんどん増えます。顔が広い人は、そう親しくない人にも時間やお金を消費することになる。60歳からは表面だけの付き合いの友人は減らしたほうがいいでしょう。
家族関係も同じで、子供たちが成人したら、家族一丸でいる必要はない。今の時代、親が子や孫のためにお金を残す必要もないですし、人生の後半はそうした“家族のしがらみ”を捨てて、迷惑をかけない範囲で自分が生きたいように生きる。必要のないものはどんどん捨てていったほうが身軽で動きやすくなりますし、人生が楽しくなりますよ」
著書に『明日死んでもいいための44のレッスン』などがある作家の下重暁子氏(84)は、シンプルな生活にこそ、幸せを感じると話す。
「世の中にはものが溢れていて、テレビなどでの評判に惑わされて、何でも欲しくなったりする。だけど、それは本当に自分が欲しいものではないの。世間に動かされて余計なものを増やすことは馬鹿馬鹿しいでしょう。
人間関係も同じで、私は大切な人とは死ぬまで付き合いたいし、大切と思わない人とは付き合わない。
自分の好きなもの、大事なもの、好きな人とだけ接して生きていたいと思うのは、それが私の証だからですね。その人の生き方は、持っているものに表われます。年をとればとるほど寂しくなるものだから、本当に大事なものだけを側に置くべきです」
背負う荷物を減らすと、大切なものが見えてくる。
※週刊ポスト2021年4月9日号