年寄株も渡さない
事件の余波は大きかった。照ノ富士の師匠である伊勢ヶ濱親方(元横綱・旭富士)も、加害者である日馬富士の師匠だったため、監督責任を問われた。当時は協会の理事で、一門の統帥の立場にあったが、2017年11月場所後の臨時理事会で自ら理事職の辞任を申し出て、2階級降格となった。翌年の理事選は出馬断念に追い込まれ、元横綱でありながら理事長レースで大きく後退した。
「日馬富士だけでなく白鵬にも責任があるはずなのに、自分の弟子だけが廃業に追い込まれた伊勢ヶ濱親方の苦悩は相当なものだっただろう。だからこそ、白鵬の年寄株問題を巡っては、意趣返しのような状況も生まれている」(前出・ベテラン記者)
力士が引退後も協会に残るためには年寄株が必須だが、白鵬は襲名できる株が調達できていない。横綱経験者は5年間、現役名のまま協会に残れる特例があるものの、取得できないまま期限を迎えれば、その時点で退職しなくてはならない。
「だからこそ白鵬は株の調達を急いでおり、狙いとなるのは定年退職者。現在の協会では65歳から5年間の雇用延長が認められているが、今年5月までに70歳を迎える親方が4人いる。そのうちのひとりが伊勢ヶ濱部屋の桐山親方(元小結・黒瀬川)です。白鵬が所属する宮城野部屋も同じ伊勢ヶ濱一門だから、この株が回ってきそうなものなのだが、難しいとみられている。部屋を仕切る伊勢ヶ濱親方との因縁もあるし、日本国籍取得の意向を明らかにして協会に残ろうとしている照ノ富士か、幕内の宝富士が、部屋の後継者候補として株を継ぐのではないか。白鵬にすれば後輩で格下の照ノ富士が、自分より先に年寄株の手当てができることになり、心中穏やかであるはずがない」(同前)
白鵬と照ノ富士の最後の対戦は、暴行事件前の2017年5月場所に遡る。その時は白鵬が勝利したが、それ以来となる次の7月場所の取組では、互いの怨念が正面からぶつかり合うことになる。
※週刊ポスト2021年4月16・23日号