2017年9月場所後の鳥取巡業を控えた10月25日夜、地元の相撲強豪校・鳥取城北高校の関係者と力士たちの食事会が開かれた。参加したのは白鵬、日馬富士、鶴竜の3横綱(当時)、鳥取城北OBである照ノ富士、貴ノ岩、石浦の関取衆3人を含む計13人だった。食事会は3時間以上続き、二次会の席での日馬富士による貴ノ岩への暴行が、角界を揺るがす大事件に発展した。
「スマホをいじっていた貴ノ岩が咎められ、カラオケのリモコンなどで日馬富士に殴打されました。貴ノ岩の師匠である貴乃花親方(当時)が警察に被害届を出し、協会内は大混乱に陥った。日馬富士は責任を取って廃業。その後も、火消しに躍起になる八角理事長(元横綱・北勝海)と、うやむやに済ませることを拒んだ貴乃花親方の対立が先鋭化。結果的に、貴乃花親方は翌年、協会を退職するに至った」(同前)
この一件は「日馬富士が貴ノ岩を殴った事件」として記憶されているが、照ノ富士も現場で“被害”に遭っている。前出の協会関係者がいう。
「これは単なる力士同士のケンカなどではなく、白鵬を頂点としたモンゴル力士グループの歪な“支配構造”が元凶となった事件でした。白鵬や日馬富士が、貴ノ岩や照ノ富士ら後輩を締め上げるという構図です」
当時、協会がまとめた調査報告書にも、照ノ富士が現場で受けた仕打ちについて記されている。
それによれば、日馬富士は照ノ富士を正座させたうえで、「稽古に気合が入っていない」などと説教。何かあるかと問われた照ノ富士が「横綱、自分たちは思っていることは言えないんで。壁があるので」と答えると、日馬富士が頬を張り、照ノ富士は一言、こう応じたという。
「ごっつぁんです」
これだけでも、同郷というだけでそこまでの“上下関係”があるのかと驚かされるが、さらなる問題を指摘するのは、前出の若手親方だ。
「当時、貴乃花親方サイドは、協会のまとめた報告書が“貴ノ岩の印象を悪くしようとしている”“白鵬に不利にならないように事実と異なる記載をしている”などと問題視して、独自に意見書を作成して協会に提出している。意見書は貴ノ岩ら“被害者側の立場”に立った内容になっていた。それによれば、『壁があります』といった照ノ富士に対して、白鵬が『何が壁だこら。土下座しろ』と応じて、膝の故障を抱える照ノ富士を正座させて説教したというのです。膝が痛む照ノ富士は正座が続けられず、途中から膝立ちの状態で叱責を受けていた。日馬富士と貴ノ岩は角界を去りましたが、今も現役を続ける白鵬と照ノ富士の間には、その時からの因縁があるわけです」
膝のケガを抱える照ノ富士が、事件当夜の“正座強要”のあと、故障が思うように回復せず、番付をどんどん下げていったのは前述の通りだ。今なお、照ノ富士は両膝に分厚いサポーターを巻いて、土俵に上がっている。