芸能

田中健 監督に言われた「上は見るな、とにかく下を見ろ」の意味

俳優・田中健が初主演のオーディションや撮影について振り返る

俳優・田中健が初主演のオーディションや撮影について振り返る

 映画史・時代劇研究家の春日太一氏による、週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・田中健は、初主演映画『青春の門』のオーディションや撮影など、当時の思い出について語った言葉を紹介する。

 * * *
 田中健は一九七五年、浦山桐郎監督による映画『青春の門』の主演に抜擢されている。

「いきなり最終オーディションからでした。五木寛之さんがいて、浦山さんがいて、プロデューサーがいて。そこで僕が福岡の八女の出身だと言ったら、五木さんもそうで。方言もそのままいけると。で、望んでもいないのに受かってしまいました。

 浦山さんは現場を大事にされている方でした。最初に言われたのは、『役者は肉体労働だ』ということです。それで『照明のバッテリーを担げ』と。休みの日もバッテリーを担ぎましたし、北九州へロケに行った時はボタの草刈りをしました。

 今から考えると、そうすることでスタッフに可愛がってもらえたと思います。現場を知れ。そのためには、まず手伝え。そういう監督の親心だったのではないでしょうか。主役だからといって特別な存在ではなく、役者というパートにいるだけだと教えてもらいました。

 浦山さんは僕ら新人には優しい方でした。当時、録音のマイクの性能がよくなくて、僕のセリフがうまく録れない時があったのですが、録音技師が『もうちょっと大きな声でセリフを喋ってくれ』と言ったところ、監督が『こいつはまだ金取れない役者なんだから、お前らがちゃんと録れ』と諭してくれました。

『用意』のかけ方も普通ではありませんでした。『はい、緊張して。用意、はい!』で本番が始まるんです。それで全員がピリッとする。果たしてそれがいいのか悪いのかは分からないんですけど、画面の隅々に何かが生まれる気はしました」

 父親役に仲代達矢、母親役に吉永小百合、さらに小林旭など、豪華キャストが組まれた。

「実はあまり緊張しなかったんです。というのも、仲代さんも吉永さんも小林さんも、当時の僕はよく分かっていなかったから。あのメンバーで一枚看板の主役なら、今ならびっくりします。でも、その時はプレッシャーもなく、ただ監督の言われた通りにやっていた。

 監督から言われたのは、『上は見るな。とにかく下を見ろ』ということでした。『あの時代は上を見ている奴はいなかった』と。そのくらいなら、当時の僕でもできます。そうやって、分かりやすく指示を出してくれたので、やりやすかったですね」

関連キーワード

関連記事

トピックス

生成AIを用いた佳子さまの動画が拡散されている(時事通信フォト)
「佳子さまの水着姿」「佳子さまダンス」…拡散する生成AI“ディープフェイク”に宮内庁は「必要に応じて警察庁を始めとする関係省庁等と対応を行う」
NEWSポストセブン
麻辣湯を中心とした中国発の飲食チェーン『楊國福』で撮影された動画が物議を醸している(HP/Instagramより)
〈まさかスープに入れてないよね、、、〉人気の麻辣湯店『楊國福』で「厨房の床で牛骨叩き割り」動画が拡散、店舗オーナーが語った実情「当日、料理長がいなくて」
NEWSポストセブン
保護者を裏切った森山勇二容疑者
盗撮逮捕教師“リーダー格”森山勇二容疑者在籍の小学校は名古屋市内で有数の「性教育推進校」だった 外部の団体に委託して『思春期セミナー』を開催
週刊ポスト
まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
新宿・歌舞伎町で若者が集う「トー横」
虐待死の事例に「自死」追加で見えてきた“こどもの苛烈な環境” トー横の少女が経験した「父親からの虐待」
NEWSポストセブン
生徒のスマホ使用を注意しても……(写真提供/イメージマート)
《教員の性犯罪事件続発》過去に教員による盗撮事件あった高校で「教員への態度が明らかに変わった」 スマホ使用の注意に生徒から「先生、盗撮しないで」
NEWSポストセブン
京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”とは(左/YouTubeより、右/時事通信フォト)
《芸舞妓を自宅前までつきまとって動画を回して…》京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”「防犯ブザーを携帯する人も」複数の被害報告
NEWSポストセブン
インフルエンサーのアニー・ナイト(Instagramより)
海外の20代女性インフルエンサー「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画で8600万円ゲット…ついに夢のマイホームを購入
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 万引き逮捕の350勝投手が独占懺悔告白ほか
「週刊ポスト」本日発売! 万引き逮捕の350勝投手が独占懺悔告白ほか
NEWSポストセブン