電話も場所をわきまえなければいけない時代
【2】携帯電話通話警察
海外に行って若干のカルチャーショックを受けるのが「電車の中で、大声で携帯電話で喋る人」の存在である。周囲の人は「シーッ」と口の前で人差し指を差し出すわけでもなければ、大声で喋る人を睨んだりもしない。「話したいことがあるんだろうな」という寛容の気持ちで放置している。
だが、日本では、電車の中でうっかり電話がかかってきた時、口に手を当ててヒソヒソ声で「今、電車なんです。降りたら折り返します」とペコペコしながら通話をしている光景を見かける。いきなりブチッと電話を切ったら失礼だと思っているのか、かかってきたら出てしまうという反射神経なのか、一応は出て、電話をかけてきた人への配慮をする。そして、周囲に対してはペコペコしている様子を見せて「電車内の皆様、お騒がせして申し訳ありません。私は車内では通話はしないのでどうかご安心ください!」というアピールをするのである。
電車内では普通に会話をしている人たちもいるのだから、電話の通話だけが悪者にされるのは意味がわからないが、とりあえず車内での携帯電話通話は悪い、ということになっている。車内アナウンスもされる。だったら「車内での会話はお控えください」も言うべきでは……と思っていたところ、コロナ襲来。すべからく、会話はよろしくないものになった。
今から15年程前、電車内では「携帯電話は心臓ペースメーカーの誤作動を引き起こしますので、優先席近くでは電源をお切りください」という“お願い”があったが、その後の総務の調査で、ペースメーカーと携帯電話は3センチ以上離れていれば影響はないことが判明。現在その推奨距離は「15センチ以上」とされ、よっぽどの混雑時以外は大丈夫、ということで、こういったアナウンスは基本的に聞かれなくなった。
ちなみに数年前、私が渋谷の酒屋でビールを買い、会計の時に突然電話が鳴った時のことだ。「はい!」と出たら、店内にいた高齢男性が杖をついてこちらに向かってきて私に杖を刺し、「ワシはペースメーカーをつけておるんじゃ。電話はやめろ!」と激怒してきた。驚いた私が「すいません!」と慌てて切ったら、この男性は満足そうに外に出て行った。高齢の男性店主は、申し訳無さそうに「ごめんなさいね……。怖いんだったら、わざわざ近寄ってこなければいいのにね」と言ってくれたが、情報はきちんと知らないと、人を怯えさせ、あまつさえ他人を不快な気持ちにさせるんだなと思ったものだ。
【3】禁煙警察
今や喫煙は「反社会的行為」といった扱いになっている。タバコにかかる税金はガンガン上がり、1990年代には200円台だったタバコ一箱が今や500円台である。喫煙率も年々低下し、「愛煙家」なんていう人種はすっかり少数派になった。
喫煙者自身も、自らがマイノリティで世間様から嫌われていることはよく理解しているので、どんどん隅に追いやられる状態を憂えながらも、「時代だからね」と従う。マナーを守っていない喫煙者がいると知ると、「ああいう輩がいるから、(マナーを守っている)俺たちまで悪者にされるんだよ…」と嘆く。
かつて飛行機でも新幹線でも普通の電車でも喫煙は可能だった。ボックス席のある車両では灰皿が設置されていたし、飛行機にも席の腕置きに灰皿がついていた。時代は変わり、今は「禁煙」が“当たり前”である。
飛行機や電車はもちろん、禁止されている場所では喫煙をしちゃダメという条例を作る自治体も増えた。「愛煙家」は、ネットでは「ヤニカス」などと揶揄される被差別者になった。肩身の狭いこの人々は、喫煙OKの場所で吸っていたとしてもしばしば「おい、クサいんだよ。副流煙でオレが肺がんになったらどうするんだ! タバコを消せ!」なんて言われることがあるという。