男女別・死因となる「がん」の部位
違いは部位か、ステージか「苦しいがん」と「苦しくないがん」
では、日本人の死因で最も多い「がん」の場合はどうか。
俳優の小西博之氏(61)が体調に異変を感じたのは2004年のことだった。
「8月に2週間ほどアフリカロケをしたあたりから体力が低下し、11月には食欲、睡眠欲、性欲すべてなくなりました。そして12月末に撮影で訪れた京都のホテルで“事件”が起きました」
夕方、ホテルのトイレであたりを真っ赤に染めるほど大量の血尿を放出。帰京してすぐ精密検査を受けると「末期の腎臓がん」と診断された。
「縦20cm、横13cmもある巨大な腫瘍で、医師からは『普通なら既に死んでいる』と言われました。その時まで痛みはなかったけど、医師に脇腹を押されて思わず『痛いィィ!』と叫び声が出た。肥大化した腎臓がんに圧迫されて、パンパンに腫れた脾臓を押されたことによる痛みだと説明されました」(小西氏)
翌年2月、9時間に及ぶ手術の末に腎臓がんを摘出した。脇腹を50針縫いながらも執刀医の能力で一命をとりとめたが、麻酔が切れた後に待っていたのは激痛だった。
「僕の場合、腫瘍があまりに大きかったので脇腹からメスを入れて肋骨の一部を切り離し、がんを切除してからまた骨をくっつけたんです。麻酔が切れてくると骨折の痛みと腫瘍を切除した痛みがドカンとやって来て……。“焼き火鉢を脇腹に押し付けられて、お腹が燃えるような激痛”でした。
医師の話では、脇腹を切る手術が最も痛みが残るそうで、鎮痛剤や座薬を使ってもまたすぐ痛くなりました」(小西氏)
一方、「がんによる痛みや苦しみはまったくありませんでした」と話すのは、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏(81)。2005年の大腸がんを皮切りに左肺、右肺、肝臓と転移を繰り返し、合計4度の手術を受けた。
「最初の大腸がんはトイレを流す時に赤黒い水で気づき、ステージIIと診断されて内視鏡の手術を受けました。
その後、肺への転移がわかった際に大腸がんがステージIVだったと判明しました。5年生存率が17.8%と聞き、死を意識しました。それでも4度の手術から回復できました」(鳥越氏)
いずれも痛みとは無縁だった。
「がんそのものでは、いたって平気でした。もちろん手術すると多少は痛むけど、日本の医療は麻酔による痛みのコントロールが発達しているので、4回メスを入れてもほとんど苦痛はありませんでした」(鳥越氏)
寝返りを打つだけで激痛
両者を分けたものは、何なのだろうか。がん難民コーディネーターの藤野邦夫氏が指摘する。
「がんの痛みはケースバイケースで年齢などの個人差がありますが、基本的に自分の細胞ががん化するため、最初は痛くも痒くもありません。肝臓や膵臓といった自覚症状の少ない“沈黙の臓器”にできるがんはそのため発見が遅れるケースが少なくありません。一方、がんが大きくなるにつれて、周囲の神経を圧迫して痛みが生じるようになります」
部位によっても違いがある。「痛いがん」の筆頭と言えるのが前立腺がんだ。
「前立腺がんは骨盤から脊髄に移行し、上腕骨や大腿骨などの骨に転移しやすい。そうなるとがんの痛みは強くなり、“寝返りを打つだけで激痛が走る”ため、天井を向いて全く動かずに眠らなくてはいけないケースが多い」(藤野氏)