【NEWSポストセブンプレミアム記事】
ある日、我が家に帰ったらスリッパの向きが変わったような気がするし、テレビのリモコンの位置も普段と違う。窓は開いておらず、ドアの鍵を壊された形跡もない。だが、あったはずのモノがなくなっている。鍵を紛失したわけでもないのに、なぜ──そんな事件が多発している。
福岡県警は5月10日、女子大生らの住むマンションに侵入したなどとして元医学部生(37)を逮捕、送検したと発表した。元医学部生は2014年9月から今年1月にかけて住居侵入や窃盗などを164件も繰り返し、女性の下着を盗んだ疑いがある。
「家に入って、普段見られない世界を見たかった」と容疑を認めているが、世間を驚かせたのはその手口だった。
無造作に机に置いたら…
元医学部生は、大学の実習や授業の合間に、顔見知りの女子大生のカバンの中や、机の上に無造作に置かれた鍵に刻印された「鍵番号(キーナンバー)」を盗み見たり、撮影したりして、そこから「合鍵」を作って侵入していた。被害者の住所は本人や周囲から大まかな情報を聞き出して、探し当てていたという。
「番号から合鍵を作る」とはどういうことか。錠取扱業者団体「日本ロックセキュリティ協同組合」に訊いた。
「メーカーから出荷された純正キーには、メーカー名と数字やアルファベットの10桁程度の製造番号が刻印されています。ほとんどの鍵が、現物の鍵がなくても、メーカー名とその番号があれば全国どの地域からでも代理店を通じて同じ鍵を購入できるシステムになっています」(事務局長)
同様の手口による犯罪は過去にも起きている。
神戸市内などで空き巣を繰り返し、現金400万円などを盗んだ30代の男が2020年11月に逮捕されたが、男はマンションの集合ポストを覗いて鍵を探し、鍵番号から複製して犯行に及んでいた。
埼玉県警科学捜査研究所に勤める30代の男性職員が、2017年2月から2019年8月にかけて同僚女性2人の自宅に侵入し、住居侵入罪と県迷惑行為防止条例違反で逮捕された事件も鍵番号から合鍵を複製していた。
警察庁の統計によると、合鍵による侵入強盗・窃盗は2019年に3309件に達している。加えて猥褻目的やストーカー行為に「合鍵」が悪用されるケースもある。