「今ある過程を残すことに意味があると思う」
中華オムライス、中華カレー、中華うどん、中華生姜焼きのほか、大阪のあんかけカツ丼、あんかけが多すぎる広島の天津飯、神戸のシチューなど、地方で独自の発展をとげたらしい、多彩なメニューが取り上げられている。
「地方に住んでる友だちに、なんか珍しい中華料理ない? と聞くと、別にないって言われるんです。けど、めちゃくちゃ、あるんですよ! 日頃から見慣れているから『珍しい』と思ってないだけで、よそから見たらじゅうぶん珍しかったりします」
回を追うごとに、定番メニューではない中華の面白さに増田さんが目覚めていき、どんどん深みにハマっていくようである。
「最初はただ、いろんなところにいろんな食べ物があるなあと思ってたんです。そのうち、その土地の文化に合わせて変化した中華料理があったり、逆にその土地の文化から生まれた中華料理もあることに気付きました」
福岡のダル麺、長崎ちゃんぽん、中華丼ができた順番など、これは食文化史的に重要な指摘ではないか、と思える発見もあるが、増田さんは、漫画で性急に結論づけたりはしない。
「食文化とか正直自分にはわからないんですが、でも“これはこういう文化”みたいなのはもっと後から見返してわかることのような気がするし、なにか結論を出すことよりも、いまある過程を残すことに意味があるのかなと思います。もしかしたらすぐ消えちゃうかもしれないし」
連載中に書籍化が決まったあとで、新型コロナウイルスの感染が広がり、地方の食べ歩き取材を続けるのも難しくなってしまった。
そこで増田さんが考えたのが「弁当にしてもうまい冷凍餃子選手権」だ。日高屋、王将、大阪王将など、各チェーン店の冷凍餃子を買ってきて、焼いたあとわざわざ冷まして弁当のおかずとして食べ比べた。
「緊急事態宣言の出ているなか、夜な夜なひとりで餃子の重さを量って、焼いて、いったいおれは何やってるんだろうなって思いましたけど、外でできることがなくなってしまったので(笑い)」