この社説の主張は正論なのだが……(5月26日付け朝日新聞紙面より)
第一に、朝日新聞社が五輪スポンサーになっていることを述べていない。朝日は「オフィシャルパートナー」契約を結び、約60億円という多額の協賛金を払って五輪を後押ししてきた。その立場を明らかにしたうえで中止を求めるなら読者も納得しやすいが、そこに触れないままでは卑怯な印象が拭えない。また、社として中止を求めるというなら、仮に中止になった場合に協賛金の返還は求めないという意見もあわせて表明すべきなのではないか。
第二に、すでに述べたように「なぜ今この社説を出すのか」の説明がない。スポンサーになったことで必要な報道が自粛されてきたのではないかという疑問は多くの読者・国民が抱いている。その通りなら自己検証があってしかるべきだし、そうでないなら本当の理由を明らかにすべきだ。<社会に分断を残し、万人に祝福されない祭典を強行したとき、何を得て、何を失うのか。首相はよくよく考えねばならない>とまで言うなら、自分たちはなぜこれまではっきりと「中止すべき」と言わずにきたのか説明するのが筋だろう。
第三に、五輪と同時期に朝日新聞社が主催する夏の甲子園についての言及がない。<十全ではないとわかっているのに踏み切って問題が起きたら、誰が責任をとるのか、とれるのか。『賭け』は許されないと知るべきだ>というのだから、当然、夏の甲子園も「賭け」はできないはずだ。社説では他の大会と比較して<五輪は規模がまるで違う>と書いているが、まさかその理屈で「甲子園はOK」と言うつもりではないだろう。
朝日新聞社内には、五輪スポンサーとして職務にあたる社員もいる。甲子園担当もいる。そのなかで難しい判断と社内調整をして社説を書いたことは想像に難くないが、だからといって書くべきことを書かず、避けてはいけない問題を避けていては「社」説とは呼べないし、読者・国民のメディアに対する<不信と反発は広がるばかり>だろう。今後、朝日が紙面でジャーナリズムの覚悟と本領を見せてくれることに期待したい。