国内

目と鼻のない18才の娘【前編】「やれること全てやる」決断までの葛藤

千璃ちゃん。写真は14才の頃。

母の美香さんと「無眼球症」と呼ばれる障害を抱える千璃ちゃん。写真は14才の頃。

「世界で最も美しいものは、見ることも触れることもできない。心で感じる必要があるのです」──これは“三重苦”を抱えて生きたヘレン・ケラーの言葉。現代は、ヘレンの生きた時代より医療も文化もはるかに発達したが、人が「生きる」ことの本質も、何か変化しただろうか。アメリカで暮らす母と娘の18年間を通して、あなたは何を感じるだろうか。

 2003年3月11日、米国ニューヨーク。この日は、いまにも雪の降りそうな寒い日だった。その2年前、アメリカ在住の日本人男性と結婚した倉本美香さん(51才)は、国際線の客室乗務員として勤めていた日本航空を退職し、夫妻でニューヨークに住むことを選んだ。翌年には、アメリカ進出を目指す日本人や企業のサポートを行うビジネスコンサルティング会社を設立し、その数か月後、妊娠が発覚する。

 産院は日本語が通じるマンハッタンの病院を選び、“その瞬間”をとらえようとカメラを構える夫に見守られながら出産に挑んだ。絵に描いたような幸せが満ちあふれていた。

 しかし、この出産で世界は一変する。当時の様子を、美香さんは著書にこう記している。

《主治医が声を荒らげて、「カメラはやめてください!」と夫を制した。何が起こったのか、私には分からなかった。

「She cannot open her eyes.(赤ちゃんの目が開かないわ)」

 ナースが絶叫したのが聞こえて、その後は何が何だか分からなかった》(『生まれてくれてありがとう 目と鼻のない娘は14才になりました』/小学館より)

「このまま娘と一緒に飛び降りたら楽になるだろうな」

 長女・千璃(せり)さん(18才)は「無眼球症」と呼ばれる障害を抱えており、生まれたときから眼球がなかった。両眼ともない症例は12万人に1人といわれる。眼球が小さく生まれてしまう「小眼球症」ならば、病気の程度によるが、治療によって視力を得ることもできる。しかし、眼球そのものを持たない千璃さんは、どんな治療を施しても、わずかな光すら感じることができない。闇の世界で生きていくことを生まれた瞬間から強いられた。

 さらに鼻や口蓋も未形成のままで、心臓には9ミリの穴があいていることも発覚する。極度に湾曲した鼻と咽頭扁桃肥大症のせいで呼吸障害もあった。広大なアメリカの地でも、これほどの重複障害は前例がなかった。美香さんは、出産直後の心境をこう明かす。

「出産を終えた私は、夫に車椅子を押されてNICU(新生児集中治療室)へ向かいました。眠っている千璃の顔を見ると、目は、まぶたを閉じているだけのようにも見えましたが、額の骨は斜めに走り、小鼻にはぽっかりと穴があいていて、外見に異常があることは明らかでした。『かわいいね』と夫に話しかけましたが、それが心の底からの本心だったかと聞かれると、なんとも言えません」

関連記事

トピックス

12月9日に亡くなった小倉智昭さん
【仕事こそ人生でも最後は妻と…】小倉智昭さん、40年以上連れ添った夫婦の“心地よい距離感” 約1年前から別居も“夫婦のしあわせな日々”が再スタートしていた
女性セブン
去就が注目される甲斐拓也(時事通信フォト)
FA宣言した甲斐拓也に辛口評価 レジェンド・江本孟紀氏が首を傾げた「なんでキャッチャーはみんな同じフォームなのか」
NEWSポストセブン
10月1日、ススキノ事件の第4回公判が行われた
「激しいプレイを想像するかもしれませんが…」田村瑠奈被告(30)の母親が語る“父娘でのSMプレイ”の全貌【ススキノ首切断事件】
NEWSポストセブン
NBAレイカーズの試合観戦に訪れた大谷翔平と真美子さん(AFP=時事)
《真美子夫人との誕生日デートが話題》大谷翔平が夫婦まるごと高い好感度を維持できるワケ「腕時計は8万円SEIKO」「誕生日プレゼントは実用性重視」  
NEWSポストセブン
元夫の親友と授かり再婚をした古閑美保(時事通信フォト)
女子ゴルフ・古閑美保が“元夫の親友”と授かり再婚 過去の路上ハグで“略奪愛”疑惑浮上するもきっぱり否定、けじめをつけた上で交際に発展
女性セブン
六代目山口組の司忍組長。今年刊行された「山口組新報」では82歳の誕生日を祝う記事が掲載されていた
《山口組の「事始め式」》定番のカラオケで歌う曲は…平成最大の“ラブソング”を熱唱、昭和歌謡ばかりじゃないヤクザの「気になるセットリスト」
NEWSポストセブン
12月9日に亡くなった小倉智昭さん
小倉智昭さん、新たながんが見つかる度に口にしていた“初期対応”への後悔 「どうして膀胱を全部取るという選択をしなかったのか…」
女性セブン
激痩せが心配されている高橋真麻(ブログより)
《元フジアナ・高橋真麻》「骨と皮だけ…」相次ぐ“激やせ報道”に所属事務所社長が回答「スーパー元気です」
NEWSポストセブン
無罪判決に涙を流した須藤早貴被告
《紀州のドン・ファン元妻に涙の無罪判決》「真摯に裁判を受けている感じがした」“米津玄師似”の男性裁判員が語った須藤早貴被告の印象 過去公判では被告を「質問攻め」
NEWSポストセブン
トンボをはじめとした生物分野への興味関心が強いそうだ(2023年9月、東京・港区。撮影/JMPA)
《倍率3倍を勝ち抜いた》悠仁さま「合格」の背景に“筑波チーム” 推薦書類を作成した校長も筑波大出身、筑附高に大学教員が続々
NEWSポストセブン
12月6日に急逝した中山美穂さん
《追悼》中山美穂さん、芸能界きっての酒豪だった 妹・中山忍と通っていた焼肉店店主は「健康に気を使われていて、野菜もまんべんなく召し上がっていた」
女性セブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
【入浴中の不慮の事故、沈黙守るワイルド恋人】中山美穂さん、最後の交際相手は「9歳年下」「大好きな音楽活動でわかりあえる」一緒に立つはずだったビルボード
NEWSポストセブン