妻・咲は料理が苦手。家庭の味に飢えていた紘一は嬉しそうに食べていた。さらに純は2品を前にしながら「私たち、新婚みたいですね」と、サイコパスな一言を発射。彼女がしていることは純粋さを装っているけれど、ただの不貞行為へのステップだ。
そう考えていると、『東京ラブストーリー』(フジテレビ系・1991年)の関口さとみ(有森也実)を思い出した。彼女はおでんを男性宅へ持ち込んだ女性の“パイオニア”である。主人公の永尾完治(織田裕二)が恋人の赤名リカ(鈴木保奈美)と別れそうになっている絶好のタイミングを狙って、鍋ごとおでんを持って永尾家に登場。そして「行かないで」と出汁の香りとともに、完治を引き止めて結果的に2人は夫婦となった。
完治がリカのもとへ行く瞬間をさとみが狙ったかどうかは、不明である。でも鍋のまま襲来するとは、完璧な猛者。視聴当時は男女のあれこれについて良くわからないまま見ていた子どもだったけれど、「おでんは危険な食べ物かもしれない」とだけは記憶した。
手作りおでんは静かなる愛の餌付け
おでんと恋愛の関係性を考える上で、もう一点、紹介したい作品がある。ドラマ『美しき罠〜残花繚乱〜』(TBS系・2015年)だ。田中麗奈演じる34歳の西田りかは、上司の柏木(村上弘明)と不倫関係にある。実ることのない恋愛、やめようと思いながらも柏木の手を離すことができない。
そんなりかは柏木が自宅へ来るたびに、手作りのおでんを用意していた。他に料理のレパートリーがないのかと思うほど、毎度おでんばかり。安酒と自分が作ったおでんを喜んでくれることが、りかの喜びだったとか。
当時この作品は清純派の田中麗奈が不倫女を演じるということが、話題の一つだった。しかし私はそんなこともよりも、関口さとみに続くおでん伝説が始まるかもしれないと、不謹慎にもワクワクしてしまった。