「長官の見解だ」と言い放った菅首相(時事)
確かに西村長官は「拝察しています」と語り、「陛下から直接そういうお言葉を聞いたことはありません」とも念を押したが、そんなはずはないだろう。天皇は政治的発言ができないから「拝察したことにしている」だけであり、何も言葉がなかったのに長官が勝手に「大御心」をこしらえることなど常識として考えられない。会見では記者から、「仮に拝察でも長官の発言としてオンだから(オフレコではなくオンレコ=公式な発言だから)報道されれば影響あると思うが、発信していいのか?」と確認されて、西村氏ははっきりと、「はい、オンだと認識しています」と答えている。発言の内容といいタイミングといい、実際は天皇との間で綿密なやり取りがあり、ギリギリ政治問題や憲法問題にならないラインで国民にメッセージを送ったと見るのが妥当ではないのか。
菅首相が取るべき対応は3つある。第1に、これを西村長官の独断だと考えるなら、大御心を宮内庁長官が捏造したという大スキャンダルである。即刻、西村氏を更迭すべきだろう。第2に、西村氏の「拝察」が正しいか正しくないか判断できないと思うなら、菅首相と丸川大臣が皇居に参上し、直接、天皇の気持ちを聞いてくればよい。オリンピックの名誉総裁として開会宣言を行うことは国事行為である。天皇の国事行為については憲法で「内閣の助言と承認により、国民のために」(第7条)行うと定められているから、内閣の責任として、天皇が「やりたい」と考えているか、「やめたほうがいい」と考えているか確認することには意味がある。そして第3に、これが大御心だと認めるなら、それは国民の声と同等に尊重すべきものだから、感染拡大を招く五輪開催そのものについて、改めて検討、検証すればいい。
しかし、菅内閣はそのいずれもしないだろう。おそらく彼らの心のうちは、「西村長官は面倒なことを言いやがって」と煮えくり返っているだけだからだ。普段は「保守だ」「天皇への尊崇だ」と軽口を叩いていても、彼らの尊王の心などこんなものなのだ。菅内閣と、それを支える「保守派」の誠意と良心が問われている。