スポーツ

西本幸雄氏から山田久志氏へ「プロはマウンドに上がるまでが勝負」

山田久志氏が西本幸雄監督からの言葉を振り返る(写真/共同通信社)

山田久志氏が西本幸雄監督からの言葉を振り返る(写真/共同通信社)

 師から弟子に受け継がれた教え。時を経た後により深く真意が理解できることもある。大毎、阪急、近鉄を率いて8度のリーグ優勝を果たしながら、一度も日本一になれなかった“悲運の名将”として知られる西本幸雄氏。阪急監督時代の1968年、ドラフト1位指名で獲得したのが社会人野球出身の山田久志氏だった。しかし、山田氏は即戦力と期待されながらプロの壁に苦しみ、ルーキーイヤーは勝ち星を挙げられなかった。山田氏が、当時の西本氏からかけられた言葉を振り返る。

 * * *
 2年目も開幕から6連敗と、まったく勝てませんでした。そんな5月の試合前、西宮球場の食堂で天ぷらうどんを食べていた西本監督に呼ばれたんです。

「山田よ。お前はよく頑張ってるけど、プロのピッチャーはマウンドに上がるまでに勝負がついているんだぞ」

 当時はよくわからなかったのですが、プロで経験を積むほどにこの言葉が身に沁みました。最高のコンディションでマウンドに上がるのはもちろんですが、ピッチャーが必死に準備している姿を見て、野手が「なんとか助けてやろう」とチーム一丸になる。その大切さを言いたかったのだと思います。

「この世界で長くやるためには、最後はコントロールや」とも言われましたが、この言葉には投球だけでなく気持ちのコントロールも含まれている。いつも深い意味がありました。

 西本さんは寡黙。お酒も飲まないし、試合後に食事も誘わない。だから球場でかけられるひと言がとても重かった。連敗した時にも、

「山田よ。ちょっとぐらい勝てへんでも、へこたれたらアカン。苦しいかもしれんが、コツコツやっとったら、お天道さまはお見通しや」

 そう言って私を使い続けてくれました。

 西本さんは「悲運の名将」と呼ばれましたが、日本シリーズで巨人に勝てなかったのは、「西本さんのために」と選手にプレッシャーがかかり過ぎたからかもしれません。それぐらい西本さんに育てられ、西本さんを慕う選手が多かった。同期入団のフクさん(福本豊)や加藤(英司)も一緒です。

関連キーワード

関連記事

トピックス

橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
看護師不足が叫ばれている(イメージ)
深刻化する“若手医師の外科離れ”で加速する「医療崩壊」の現実 「がん手術が半年待ち」「今までは助かっていた命も助からなくなる」
NEWSポストセブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
キール・スターマー首相に声を荒げたイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
《英国で社会問題化》疑似恋愛で身体を支配、推定70人以上の男が虐待…少女への組織的性犯罪“グルーミング・ギャング”が野放しにされてきたワケ「人種間の緊張を避けたいと捜査に及び腰に」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン
フレルスフ大統領夫妻との歓迎式典に出席するため、スフバートル広場に到着された両陛下。民族衣装を着た子供たちから渡された花束を、笑顔で受け取られた(8日)
《戦後80年慰霊の旅》天皇皇后両陛下、7泊8日でモンゴルへ “こんどこそふたりで”…そんな願いが実を結ぶ 歓迎式典では元横綱が揃い踏み
女性セブン
犯行の理由は「〈あいつウザい〉などのメッセージに腹を立てたから」だという
「凛みたいな女はいない。可愛くて仕方ないんだ…」事件3週間前に“両手ナイフ男”が吐露した被害者・伊藤凛さん(26)への“異常な執着心”《ガールズバー店員2人刺殺》
NEWSポストセブン