芸能

立川志の八 師匠・志の輔譲りの二部構成で名人の魅力的な人物像を提示

立川志の輔の二番弟子、立川志の八(イラスト/三遊亭兼好)

立川志の輔の二番弟子、立川志の八(イラスト/三遊亭兼好)

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、立川志の輔の二番弟子、立川志の八独演会についてお届けする。

 * * *
 立川志の輔が下北沢の本多劇場で圓朝作『牡丹灯籠』全編を2時間半で語る公演は今や夏の風物詩。今年も8月2日から6公演行なわれる。

 その本多劇場で志の輔の二番弟子、立川志の八が5月9日に独演会「しのはちの覚悟2021~左甚五郎」を無観客で生配信した。8日には有観客で行なうはずだった公演が緊急事態宣言発出により中止となり、翌日の配信公演のみとなったもの。前半は志の八が甚五郎伝説を探るドキュメンタリー映像とトーク、後半は志の八がこの公演のために創作した落語『眠り猫』。こうした二部構成はまさに志の輔譲りだ。

『眠り猫』は三代将軍家光による日光東照宮の“寛永の大造替”を舞台とする物語。大棟梁の甲良豊後守は日光に全国各地から職人を集め、甚五郎に江戸の職人の束ね役を頼んだが、甚五郎は二代目政五郎を推挙して自らは固辞。豊後守は若い政五郎の後見を甚五郎が務めることを条件に了承、甚五郎には奥社への回廊の門に彫刻をするよう命じた。

 だが日光では江戸の職人への反発は強烈で、日光の職人を束ねる金蔵の嫌がらせは執拗を極めた。甚五郎が彫り上げた眠り猫を豊後守は「大権現様が望んだのは猫がのんびりと眠れる太平の世。さすが名人だ」と絶賛したが、欄間に据えた途端その猫が目を開け、唸り声を上げた。金蔵の憎悪が火種となって全国から集まった職人の間に諍いが絶えず、猫が安眠できないのである。

 金蔵が「この猫は疫病神、叩き壊せ」と煽ると、怒り心頭の政五郎は殴り込みをかけたが、押さえ込まれて謹慎処分。裁きは“喧嘩両成敗”だが金蔵は収まらない。決着をつけるため甚五郎が金蔵の許へ行くと、金蔵は「その右腕を落としてもらおう」と迫る。無理を承知の嫌味だったが、甚五郎は平然と「右腕一本でいいのか」と差し出し、切り落とさせた。「喧嘩両成敗、お前の腕ももらおうか」と言われた金蔵は泣いて許しを請い、これを機に職人の諍いがなくなると、眠り猫は安心して目を閉じた。名人が右腕を失ったことを嘆く政五郎。だが甚五郎は「見くびるんじゃねえ! 俺は“左”甚五郎だ!」と力強く宣言してサゲ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
犯人の顔はなぜ危険人物に見えるのか(写真提供/イメージマート)
元刑事が語る“被疑者の顔” 「殺人事件を起こした犯人は”独特の目“をしているからすぐにわかる」その顔つきが変わる瞬間
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン