講談の『陽明門の間違い』も「日光での揉め事で右腕を落とされ左腕一本で仕事をしたから“左”甚五郎」という由来を語るが、志の八は独自の視点で新たな物語を創作し、甚五郎が“諍いを収めるために”自ら腕を差し出すという男気を見せることで、これまでにない魅力的な人物像を提示してみせた。“不穏な空気で猫が眠れない”という発想も見事。素晴らしいイベントだった。
【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。『21世紀落語史』(光文社新書)『落語は生きている』(ちくま文庫)など著書多数。
※週刊ポスト2021年7月9日号