渋谷ユーロスペースでの上映は9日まで(名古屋は上映中、大阪、京都ほかでも上映予定) (C)2021「息子のままで、女子になる」
ジェンダーロールが固定化されていた時代が過去のものとなることで、もしかしたら自身のアイデンティティを見失ってしまう人も出てくるのかもしれない。だがサリー楓は若い世代に向けて「焦らなくていい」と優しく語りかける。
「今はジェンダーに限らず、他人と違う人生を生きることがとても尊重されている時代ですよね。それがいきすぎると『他人と違ってもいいよ』というだけではなくて、『自分らしくならなければいけない』みたいな空気感を生むことになります。
そうした中で、例えば義務教育でLGBTについて学んで『ジェンダーは選択できるものなんだ』と知った時に、自分がどういう選択をすればよいのか悩んでしまったり、自分のジェンダー感が揺らいでしまったりすることもあるのかなと思います。
けれど『早く自分のジェンダーを決定しなければいけない』という重圧を感じる必要は全くないと思っています。何も決めないということもその人の選択したことだと思いますし、『自分らしくならなければいけない』と焦らなくていいんじゃないかなと」(サリー楓)
個性を無理に押し付けることは、ステレオタイプな“LGBTらしさ”を求めてしまう問題とも根を同じくしている。こうした現状は変えていかなければならない。『息子のままで、女子になる』に映し出されたサリー楓の生き方からは、そういったメッセージも受け取ることができるのではないだろうか。
◆取材・文/細田成嗣(HEW)