言葉の不思議さ、曖昧さをいつも意識している
方言は、この物語の重要な要素になっている。道尾さんは、新潟の方言辞典を各種買って読み込んで、キーワードになる言葉を選び、「新潟弁ネイティブ」になりきって書いていったという。
「言葉の不思議さ、曖昧さというのはいつも意識しているので、書くときには絶対、誤解されないように文章を書きますし、逆に、わざと誤解させるように書くこともあります。
面白い言葉の使い方やトリックを思いつくと、パソコンのワードファイルに書き留めておきます。いざ、小説を書くとき見直すんですが、小説に使えたことはほぼなくて、だいたいその都度、一から考えることになるんですけど(笑い)」
秘密の描かれ方も興味深い。たいせつな人を守ろうとして、秘密はときに人間の運命を狂わせもするのだ。
「秘密って、人間をマイナスの方向に動かす、ものすごく大きな動機になってしまうことがあります。たとえば強盗殺人なんかも、盗みに入ったら顔を見られて、自分の正体を隠すために起きるわけで、ただの物盗りが、秘密が露呈することを恐れて窃盗が殺人に変わってしまう。秘密の持っているそんな恐ろしさは、ずっと気になっていました」
精密なプロットに従い、構成された小説だが、エピローグの部分は書き残し、最後に執筆したそうだ。
「神という言葉がタイトルに入った小説を書くのは3作目ですが、神とは何だろう、というところまで踏み込んだのは今回が初めてです。
小説の中に神さまが登場するわけではありません。運命に翻弄される人々が、神さまを信じ、あるいは疑うとしたら、どういう瞬間なんだろう。ラストは、登場人物と1年間じっくり付き合って、彼らの腹の底まで知ったうえで結論を出そうと思ってたので、ぼく自身も、登場人物と一緒に考えながらエピローグを書きました。そうやって、確信をもって書いたのがあの最終ページです」