厳しすぎるファンの要求
実はこの“インフィニティ族”スカイラインはメルセデスベンツ「Cクラス」やBMW「3シリーズ」をはじめ世界のプレミアムミッドサイズを打倒することを目指して開発されたもので、当時としては図抜けた高強度ボディ、4輪軽合金サスペンションなどのぜいたくな構造を持ち、クルマとしての基本性能については高い評価を受けていた。が、出来の良い後輪駆動というだけではスカイラインとは認識してもらえなかったのだ。
市場が限られ、「スカイラインたるものこうでなければいけない」というファンの要求するフォーマットが時代遅れのものも含めて異様に厳しい。四半世紀に及ぶ販売不振で顧客数は激減し、次のスカイラインを作ったとしても実際に買ってもらえるかどうかは甚だ心もとない。
そして、そこに昨今急激に高まりつつある電動化の重圧もある。スカイラインはヘリテージ(歴史遺産)としての価値は大いにあるブランドだが、まことに活用の難しいブランドなのだ。
果たして日産はスカイラインを残すことができるのだろうか。それ以前に、スカイラインブランドは残すだけの価値があるものなのだろうか。それを考察するには、今売られているモデルに乗ってみなければ始まらないということで、北米で2013年、日本では2014年発売の現行スカイラインを750kmほどテストドライブしてみた。
どこまでも行きたくなる「走り」
試乗したのは純エンジン車の「400R」というグレード。最高出力405馬力の3リットルV型6気筒ターボエンジンを積む、シリーズ最速モデルである。試乗ルートは東京を起点として東は千葉の九十九里浜、西は伊豆半島までを周遊するというもので、総走行距離は745.1km。都市走行、郊外路、高速道路、山岳路とまんべんなく走ってみた。
まずは総合的な印象だが、スカイライン400Rはライドフィールの面では2001年にデビューしたインフィニティ族スカイラインの延長線上にある。1989年発売の通称「R32スカイライン」のような、1200kg台のボディに2リットルターボエンジンを組み合わせたような軽快感はなく、走りの質はインフィニティが目指したグローバル市場のプレミアムミッドサイズクラスの顧客を満足させるような重厚なものだった。
では、その走りはエキサイティングなものではなかったかというと、さにあらず。スポーツドライビング、のんびりツーリングを問わず、どこまでも走って行きたくなるようなプレジャーを有していた。
明確な難点を挙げるとすればハイパワーなターボエンジンを積むがゆえの燃料コストの高さだが、それとてよくよく考えてみれば20年ほど前の2リットル車くらいの水準。基本設計が新しいとは言えないクルマをよくもここまで念入りに作り込んだものだと感心させられた次第だった。