こうした成功例を見ると、誰でも簡単に始められるように勘違いしがちだが、坂東院長は「自己判断での断薬は厳禁」と釘を刺す。「降圧剤によっては、弱った心臓の機能を保持する効果を期待して処方されることもあるからです」という。
こんな例がある。59歳の女性Bさん(身長151cm、体重52kg)は、別の医院で処方されていた降圧剤を、自己判断で中断。血圧は150~160と高いままで、就寝前に動悸や胸の苦しさを感じるようになり、抗不安薬を処方されていた。
「正しく血圧を測定すると180まで達することもありました。さらに、ごく軽度ですが、大動脈弁閉鎖不全も認められたので、降圧剤(ブロプレス)を再開。Bさんは塩分に非常に影響を受けやすく、普段から減塩醤油などを使っていたが、食品に含まれる塩分まで注意が及んでおらず塩分過多になっていました」
食生活を細かく見直したところ、3日目には110台に低下したので、降圧剤を中止。その後も食生活の調整で120~130で推移したため、降圧剤は再開せず、大動脈弁閉鎖不全もごく軽度だったため、初診から1年半で通院不要となったという。
ただ、同院を受診した患者全員が脱・降圧剤に成功したわけではない。
「高血圧だけの患者さんで、意欲が強い場合は比較的スムーズに降圧剤の減量ができますが、慢性腎臓病の方や慢性呼吸器疾患の方、脳卒中で麻痺のある方、職場や家庭のトラブルがある方などはなかなか断薬しにくいのも事実です。
高血圧診療は医師一人ではできません。単に薬をもらってくるだけの高血圧診療に悩んでいる人は管理栄養士、外来看護師などによるサポートが充実している病院を選ぶといいでしょう」
【プロフィール】
坂東正章(ばんどう・まさあき)1953年生まれ。徳島大学医学部医学科卒業。元心臓血管外科専門医(循環器科・心臓血管外科)。2003年、徳島県で『坂東ハートクリニック』を開院。著書に『血圧は下げられる、降圧剤は止められる』など。
※週刊ポスト2021年8月13日号