1996年に史上初となる七冠を達成した(写真/共同通信社)

1996年に史上初となる七冠を達成した(写真/共同通信社)

 現在の将棋界は、「4強」と呼ばれる4人の棋士が熾烈な覇権争いを繰り広げている。豊島将之竜王(叡王、31)、渡辺明名人(棋王・王将、37)、藤井聡太王位(棋聖、19)、永瀬拓矢王座(28)の4人だ。

 若手時代は先輩棋士をなぎ倒した者も、年齢を重ねれば若者の突き上げを食らう側になるのは勝負の世界の必定である。

 羽生も彼らに大舞台で負かされることが増えた。昨年、竜王戦七番勝負に出場したが、豊島竜王に1勝4敗で敗れた。今年に入って王位戦で挑戦者決定戦に進出して藤井王位への挑戦なるかと騒がれたが、再び豊島竜王に屈してタイトル戦出場はならなかった。羽生の成績も決して悪くはないのだが、若手のトップクラスに跳ね返されることが増えている。それでも、羽生は淡々とこう話す。

「競争の世界においては、新しい人や新しい考え方が出てくることは自然で健全だと思っています。それによって刺激を受けて、自分なりに新しいものを取り入れることが大事だと思っています」

 若手棋士たちはAIを使いこなし、効率よく勉強している。昔に比べて情報量は格段に増え、簡単に得られるようになった。羽生はそのことをどう感じているのだろう。若者をうらやましく思うこともあるのだろうか。

「うらやましいと思うことはないです。自分が経験できたことでよかった面もあるし、そうでない面もありますが、両面あるのはいつの時代でも同じなので。ただ世代や年代によって経験できた内容の違いは間違いなくあります。自分は昭和のアナログな時代から、テクノロジーが発達した現代までを体験できた。これは実はすごく幸運なことだったんじゃないかと思っています」

 いまは公式戦をリアルタイムで観戦できるが、昔は後日に将棋会館に出かけて棋譜をコピーするしか情報を得る手段がなかった。パソコンはないので手で盤に並べる。もちろんAIもないので、うんうん唸って自分の頭で考えるしかなかったが、だからこそ吸収できたものがある。アナログとデジタルの融合が、羽生の強さを支えてきたのかもしれない。

文/大川慎太郎(将棋観戦記者)
1976年生まれ。出版社勤務を経てフリーに。2006年より将棋界で観戦記者として活動する。著書に『証言 羽生世代』(講談社現代新書)などがある。

※週刊ポスト2021年8月20日号

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
”クマ研究の権威”である坪田敏男教授がインタビューに答えた
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン