芸能

永島敏行「僕は素材。経験がないことがよかったのかもしれません」

俳優・永島敏行の印象に残っている言葉を紹介

俳優・永島敏行の印象に残っている言葉を紹介

 映画史・時代劇研究家の春日太一氏による、週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優の永島敏行がデビュー当時について語った言葉を紹介する。

 * * *
 永島敏行は専修大学の学生として準硬式野球部に所属していた一九七七年、鈴木則文監督の映画『ドカベン』で俳優デビューしている。父親が永島に黙って同作のオーディションに応募、野球の能力を買われてこれに合格したのがキッカケだった。

「稽古はちょっとだけしてくれたんですけども、演技の勉強とかは全くなかったですね。

 いろいろな映画を観てきたので目だけは肥えていたと思うのですが、ラッシュで自分の芝居を観た時に『こいつはダメだ。こんな下手は今まで観たことがない』と思いましたよ。

 則文さんはその下手さを逆に狙ったのかもしれません。僕は真剣にやればやるほど下手になるところがあるんで。ただ、自分としては『もう観たくない』という芝居でした」

 翌七八年には東陽一監督の『サード』に主演、若手俳優として大いに注目されていく。

「これも父親が勝手に応募したんです。でも、このオーディションには行きませんでした。僕は野球部に戻っていて、当日は試合があったんです。

 当時は連帯責任というのがあって、一人がサボることで他のみんなに迷惑をかけるわけにはいきませんでした。

 ところが電話がかかってきて『オーディションで該当者がいなかったので、面接に来てほしい』と。それで行ったのですが、『ドカベン』で売り込みたくなかったのでそのことは言いませんでした。聞くことも聞かれず『もう帰っていい』と言われて、次の日に『君で行くことになった』と言われて。

 寺山修司さんの書いた脚本をいただいたら『野球をやっている無口な少年』とあったんです。『君のしゃべらない顔がいい』ということでした。

 寺山さんの脚本にはせりふが書いてないんです。シーンごとにテーマみたいなのは書いてあるんですが。群馬県の大胡の駅前にあるひなびた喫茶店で撮影をした際、東監督が『お前たち、そこで雑談してろ』って言うわけです。それで『お金をもうけるのはどうしたらいいか、ということを入れて話せ』とか振ってくる。おかげで僕らは演技しているという意識が全くありませんでした。自分の言葉でしゃべればいいので。

 下手に演技しようとしたら酷いものになっていたでしょうけど、プロの人たちが僕らの自然な状態を切り取ってくれたんだと思っています」

関連キーワード

関連記事

トピックス

佳子さま、手話を使う人々の間で“アイドル的存在”に 『オレンジデイズ』『星降る夜に』の手話監修者が明かした「佳子さまの手話」の美しさ
佳子さま、手話を使う人々の間で“アイドル的存在”に 『オレンジデイズ』『星降る夜に』の手話監修者が明かした「佳子さまの手話」の美しさ
週刊ポスト
未成年誘拐の容疑で逮捕された小坂光容疑者(26)と、薬物中毒で亡くなったAさん
「春先から急に“グリ下”に......」「若い中高生らを集めて遊んでいた」未成年3人誘拐の小坂光容疑者のSNSに残されていた「亡くなった女子高生の青い舌」
NEWSポストセブン
藤澤五月(時事通信フォト)
ロコ・ソラーレに新たな筋肉ムキムキ選手、藤澤五月超えの“肉体”目指す人気選手 ボディビル系トレーニングを控える「暗黙の了解」
NEWSポストセブン
小倉將信・前こども担当相の政治資金に目を向けると…(時事通信フォト)
【小泉進次郎氏の“相棒”】小倉將信・前こども担当相 献金元がパチンコ・パチスロ、ラブホテル…“子供が入れない業界ばかり”のなぜ
週刊ポスト
郵便局員が郵便物を配達せず捨てていたことが判明(時事通信フォト)
約3000通の郵便物を捨てた10代新入社員、背景に「昼休みを取れず残業が横行…」元職員が明かす“ブラック職場”疑惑 日本郵政は「労働力の確保に苦労している」
NEWSポストセブン
制度的に辞職に追い込む方法はあるのか(時事通信フォト)
“無敵の人”斎藤元彦・兵庫県知事、強制的に辞職させるのは簡単ではない 不信任決議には「議会解散」、リコールには「66万人の署名」の高いハードル
週刊ポスト
カラになった米売り場の棚(AFP=時事)
《令和の米騒動リポート》足りないのは安い米?米は本当に不足しているのか 米農家は「価格の知覚がおかしな消費者が増えた」と悲痛
NEWSポストセブン
小柄女性と歩く森本レオ(81)
《今でも男女は異文化交流だと思う》森本レオ(81)が明かした世間を騒がせたスキャンダルの真相「女性に助けられた人生でした」
NEWSポストセブン
酒井法子、異次元の若さを保つアンチエイジングの代償
《顔や手にびっしりと赤い斑点》酒井法子、異次元の若さを保つアンチエイジングの代償か 治療したクリニック院長は「長くて4~5日程度、注射針の跡は残ってしまいます」
女性セブン
現地のパパラッチに激写された水原一平被告(BACKGRID/アフロ)
《妻との大量買い出し姿をキャッチ》水原一平被告、大谷翔平の「50-50」達成目前で際立つ“もったいなさ”と判決言い渡し前の“いい暮らし”
NEWSポストセブン
かつて不倫で注目を集めた東出昌大が松本花林と再婚(時事通信フォト)
《東出昌大に急接近の新妻・松本花林》一定の距離感保った女優仲間3人の“暗黙の了解”が崩れた「6月事件」
NEWSポストセブン
森本レオ(時事通信フォト)
《表舞台から消えた森本レオの現在》元女優妻との別居生活50年、本人が明かした近況「お金を使わず早く死んでいくのが人生のテーマ」
NEWSポストセブン