藤井聡太王位(時事通信フォト)
何歳まで現役でいるか
棋士は成績が悪ければ引退しなくてはいけない。名人戦につながる大事な棋戦の順位戦が現役の基準(※順位戦C級組からフリークラスに降級した場合、60歳で定年となり、引退することになる)になっており、羽生は最高峰のA級にいる。制度上、羽生の引退は60歳までないし、そもそもそれほど悪い成績になることはあり得ない。ただ現役生活が35年を過ぎて、引き際について意識することはあるのだろうか。
羽生は「うーん」と喉を鳴らしてから言葉を続けた。
「何歳まで現役を続けるかという判断は難しいんですよね。制度的に自分はかなり長い年数は保障されています。ただ自分の場合はただただやっていればいいのかという問題もあります。だから先のことはまったく見えないというか、5年後のことですらわかりません。でも、そういう世界に入ったので、そういうものだと受け止めています」
確かに勝負の世界は先が見えない。どれほどタイトルを持っていても、翌年にはゼロになる可能性だってある。棋士に先の目標を訊いても、「目の前の一局を頑張ります」という返事があることが多い。慣用句のようだがそうではなく、素直な心情なのだ。とはいえ、まったく基準がないわけではないだろう。
「こんな感じの将棋しか指せなくなったら辞めたほうがいいんじゃないかという基準は自分の中にあります」
他の棋士は、羽生の今後をどう見ているのか。羽生の研究パートナーを務める長岡裕也六段(35)はこう語る。
「今後、羽生先生がタイトル戦に1回も出ないという状況はちょっと想像できません。ただ羽生先生がいまと同じ将棋を指していくかはわかりません。10年後もAI全盛で最新形を追求し続けるのではなく、例えば研究から離れた将棋を多用する可能性もあるでしょう」
森下卓九段(55)は期待を込めて語った。
「羽生さんにはなんとしても100期を獲得してほしい。しかし現在は『4強』と呼ばれるタイトルホルダーたちがいて、挑戦者になること自体が大変です。また挑戦者になっても、例えば藤井(聡太)さんからタイトルを獲るためには3勝か4勝しなければいけない。もし羽生さんが藤井さんからタイトルを獲ったら、国民栄誉賞どころじゃなくて人類栄誉賞ですよ。2人の年齢差は32歳ですからね。でも羽生さんはなんとかするんじゃないだろうかと思わせる凄みがあります。羽生さんならやるんじゃないかと、多くの棋士は思っているはずです」