老いていく気楽さも
これから日本は未曽有の高齢社会を迎える。誰もが未来への不安みたいなものを漠然と感じることはあるだろう。羽生はどうなのだろうか。
「若い時は時間が無尽蔵にあって、これがずっと続いていくんじゃないかと思えます。でも年齢を重ねると、そうではないことがわかる。それは確かに不安ですけど、逆に落ち着くこともあるんです」
どういうことなのだろうか。
「現在の状況が無限に続いていくというのは、結構怖い話でしょう。でも物事はすべて有限で、必ず終わりが来ると思えば、気楽になる意味もあります。例えば対局で長時間ぶっ続けで指すのはしんどいじゃないですか。でも遅くとも12時間後には終わるとわかっていれば、つらくても頑張り切れるんです。老いていくことに対してしんどい気持ちもありますけど、逆に気楽になっていく部分もあると思うんです」
羽生はそう言って、さわやかな笑顔を見せた。その時に私が感じた気持ちと同様のことを、長岡六段も語っていた。それを締めの言葉にしたい。
「羽生先生と研究会で将棋を指すと、晴れやかで前向きな気持ちになることが多いんです。お会いして元気をいただける方ってなかなかいませんが、15歳上の羽生先生からはいつもエネルギーをいただいています」
文/大川慎太郎(将棋観戦記者)
1976年生まれ。出版社勤務を経てフリーに。2006年より将棋界で観戦記者として活動する。著書に『証言 羽生世代』(講談社現代新書)などがある。
※週刊ポスト2021年8月27日・9月3日号