作品によってさまざまな表情を見せる戸田恵梨香
しかし現実、特に日本社会の中では、理想的な女性リーダーが生まれにくい。男性優位の組織の中では、仕事ができかつ温かすぎず冷たすぎず、可愛さも愛嬌までも求められるダブルバインド状態。
しかも、女性の部下とも上手にコミュニケーションをとる必要がある。それをやらないと女の敵は女とばかり後ろから刺されてしまったり。結婚すれば仕事に加えて家事も子育てもと、てんてこまい。
ビジネス環境が男性優位にでき過ぎていることは、イエール大学の研究も示しています。
男性CEOは自己主張すると「仕事ができる」と評価される率が10%高くなるが、女性CEOの場合はその反対。自己主張する人はしない人よりも14%評価が「低かった」そうです。アメリカの調査でこれだから、日本は推して知るべし。女性の自己主張がネガティブな結果を招くなら、リーダーなんて生まれてくるはずない。
戸田さん演じる藤は、そんな時代の「ロールモデル」。男性同僚から「マウンテン雌ゴリラ」と呼ばれるほど強く、しかし結果をちゃんと出すから一目置かれている。人間に対する洞察が深く、女性後輩からも好かれ慕われ、全体を見る視野がある。なかなか現実にいそうもないスーパーウーマンですが、だからこそ憧れも含めてこのドラマは人気があるのでしょう。
さて、女優・戸田恵梨香のここ数年を見回すと仕事はどれも重厚な役ばかり。
NHK朝ドラ『スカーレット』(2019年)は陶芸家・川原喜美子の波乱万丈な人生を描くドラマでした。陶芸家として強いこだわりを持つ女性を演じましたが、こだわり過ぎる人物ゆえ一人で戦っているきらいもあり、夫ともすれ違い離縁してしまう。戸田さんは徹底して役造りをしたようですが、力みすぎて空回り感もあった。
一方、『大恋愛~僕を忘れる君と』(2018年)ではムロツヨシ演じる小説家・真司の恋人、尚を演じて大評判をとりました。前を向いて歩き男に頼るタイプではない女医の「強さ」が、病の影響で「弱さ」にからめとられていく過程が切なく浮かび上がっていました。
そう、戸田恵梨香という女優は一人で奮闘する役よりも、誰かとやりとりする役、あるいは今回のように組織の中、他人との関係が深い役柄でこそ、一層輝き放つと言えるのではないでしょうか。
ちなみに、「ハンサム」は「hand・手」と、~しやすいという意味の「some」を組み合わせた言葉。手で扱う、相手を転がすことができる、という意味あいが「ハンサム」の語源と聞きました。その意味で、戸田恵梨香はまさしく「ハンサムウーマン」です。彼女の手が女性視聴者の気持ちをしっかりと掴んで離さないのだから。