伝説の9代目ベンツ(オス)享年35

伝説の9代目ベンツ(オス)享年35。2つの群れで頂点に立ち、同園の人気ものになった名誉ボス。ヤケイの人気はベンツを超えられるか…?(時事通信フォト)

裏で糸を引いているのはメス

 7月末、ヤケイのボスザル就任を公表したところ、東京五輪開催中にもかかわらず大きな反響を呼んだ。動物行動学研究家の竹内久美子さんも「非常に驚いた」と話す。

「今回、メスのヤケイがボスになり得たのは、ニホンザルが『母系制社会』であることも大きいでしょう。ニホンザルのメスは生涯を1つの群れで暮らしますが、オスは繁殖可能な年齢に達すると別の群れに移ります。そして、元の群れには新たなオスがやってきます。

 つまり、メスは血縁で結ばれているけれど、オスには血縁関係がない。そうした集団の社会を『母系制社会』といいます」

 オスが群れを離れる理由は、近親交配を避ける目的が大きい。藤田さんが言う。

「高崎山では、ボスになったオスは『メスにモテない』というデメリットがあります。メスザルは発情期になると群れのオスたちと自由に交尾するため、生まれた子供たちは父親が誰なのかわからない。すると、群れに長くいるオスほど血が濃くなる可能性が高いため、メスはボスザルを避けるのです。成熟したオスが子供を残したい場合、ほかの群れに移動するしかありません」

 血縁関係にあるメスたちは強い絆で結ばれている。そのため、いくら体格に優れ、けんかが強いオスザルでも、メスたちの支持がなければボスにはなれない。

「裏で糸を引いている“真のボス”はメスであり、オスのボスはお飾りにすぎません。しかし、“表のボス”にはけんかの仲裁という重要な役割がある。体が小さいメスはオス同士のけんかを止められないこともあって、メスがボスになることはあり得なかったのです。ヤケイは、有力家系の出身かつ、オスを負かす体力があった特例です」(竹内さん)

 オスに特徴的な行動をヤケイが繰り返していたことから、通常のメスより男性ホルモンの「テストステロン」値が高いのではないかという推測もある。テストステロンは、体毛、筋肉、性欲が増すほか、大胆な行動などにも影響する。

「メスの方が地位が高いという意味では『ボノボ』というチンパンジーに近い類人猿もいます。彼らは『父系制社会』でありながら、『ホカホカ』と呼ばれるメス同士で性器をこすり合わせる特別なコミュニケーションによって、血縁を超える強い絆で結ばれている。

 しかし、どんな動物でも、メスがボスになることは原則ない。動物は性差を重要視しており、オスとメスの違いを尊重している。そういう意味でも、今回の猿山の件は不思議です」(竹内さん)

 当の高崎山のサルたちも初めてのことに戸惑っているのか、序列の低い若いサルたちが不満をためているようにも見えると藤田さんは言う。

「メスは特定のオスに入れ込んだり、出産、育児のタイミングで体力が弱ることもあります。その際にトップを維持できるか。発情期のこの秋が山場です」(藤田さん)

 結婚や出産、育児と女性の社会的立場を両立する難しさは人間社会も同じ。ヤケイの行く末を見守りたい。

※女性セブン2021年9月16日号

ヤケイが餌場に現れ、慌てて逃げるナンチュウ(共同通信社)

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同園の餌場の様子。ヤケイはあまり姿を現さない

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